線上にての価値 You want to Bet








  4―――

 そしてアメリカに来たリョーマと佐伯。
 「オイ! ここは子どもの遊び場じゃねーんだぞ! ガキはさっさと帰って寝ろ!!」
 「あっそ。じゃあアンタがさっさと帰ったら?」
 「このクソガキ・・・!!」
 「まだまだだね」
 こんな感じで、リョーマは実に立派に馴染んでいた。誰彼構わず売られたケンカを買う無謀っぷりは、確かに世間知らずの金持ちっぽい(偏見)!!
 それはそれとして、幼い頃からアメリカで試合などに出させられていたリョーマは他人のあしらい方が上手い。相手に舐められないための言動は心得ている。これは日本で彼の試合を観ていれば誰でもわかる事。そして佐伯はリョーマの『オモチャ』につき、後ろから大人しく付き従う事にした。おかげで楽なものだ。
 あらゆる敵(勝手に作って増やした)を退けいざ戦場へ。
 「佐伯・・・」
 彼と向かい合うのは実に1ヶ月ぶりの事。『
Kou』という名で薄々気付いていたのだろう。リョーガの顔には、本当にそうだったのか・・・という程度の驚きしかなかった。
 こちらも特に話す事はない。佐伯はラケットをリョーガにつきつけた。
 一言だけ、言う。
 「お前に勝つよ、リョーガ」
 驚きに開かれていたリョーガの目が、
 きつく引き絞られた。







・     ・     ・     ・     ・








 「ベスト・オブ・1セットマッチ! 
Kouサーブ!!」
 審判の合図に合わせ、まずサーブ権を獲得した佐伯が攻撃に出た。佐伯の攻撃―――挑発から。
 ラケットでボールを叩く。軽いウォーミングアップといったところか。何度か地面でバウンドさせ、
 ひときわ強く叩きつけた。
 コントロールをミスったか、真下ではなく丁度佐伯の真横でバウンドした球。さらに後ろに向かい、佐伯の背中の裏を高く跳ねていく。客席から失笑が洩れた。
 が―――
 スピンをかけられた球は空中で軌道を変えた。背中を斜めに横切り頂点に達した時には再び佐伯の真横に戻り、肩上に軽く上げた右手にすっぽり収まった。失笑が吸気音に変わる。
 この辺りの・・・実際には何の役にも立たない一芸は佐伯の得意所だ。まともに感心しても調子に乗せるだけである。
 頭をぽりぽり掻いて無視するリョーガに、ようやく佐伯はサーブへと入った。受け取ったボールを高く投げ上げる。
 とてもよく見るフォームでのサーブ。リョーガなら絶対にわかっただろう。だからこそ見送られた。
 「
15−0!」
 「あれは・・・ツイストサーブ・・・!?」
 「馬鹿な・・・! 
Ryogaと同じではないか・・・!!」
 あちこちでそんな声が上がる。利き手の違いにより遠くに跳ねていった球を見送っていたリョーガが戻ってきた。
 「やってくれんじゃねーか」
 「お前へのサービスさ」
 「よく言うぜ」







・     ・     ・     ・     ・








 「あ、不二先輩」
 「やあ越前。そっちはどう?」
 「佐伯さんさりげにバカっスね。あっさり乗って来たっスよ」
 「うん。リョーガ君も何も疑わずに頑張ってるよ」
 「バカばっか・・・」
 「そうだね・・・・・・」
 こそこそ合流した両者のオーナー―――リョーマと不二。本人の前では決して言えない暴言にて現状を確認し、試合へと意識を戻す。タイミングよく、審判の声が流れてきた。
 《ゲーム
Ryoga! 3−3!》
 「3−3、か・・・」
 「実力は互角なんスね」
 「そうだね。小細工―――はまあ多々あるけど、それでもどっちも手は抜いてないし」
 「やっぱさすがにこういう時は真面目にやるんスね」
 「どっちが勝つと思う?」
 「さあ」
 首も傾げずリョーマが一言で答える。不二もくすりと笑い、
 「僕もそう思うよ」
 「イヤ俺は何も思ってないし・・・・・・」







・     ・     ・     ・     ・








 そんな2人の予想(?)どおり、試合は最後まで縺れ込んだ。互いにサービスキープを続け、現在6−5で佐伯のリード。そして・・・
 《
3040! Kouマッチポイント!!》
 「次で・・・、俺の勝ちだぜ・・・・・・」
 「焦んなよ・・・。勝負は、終わりまでわかんねーぜ・・・?」
 「言うじゃん・・・・・・」
 呟き、佐伯は本日何度目かのサーブの構えに入った。向かい合って構えるリョーガを見やる。
 (越前リョーガ。サムライ南次郎の息子、か・・・・・・)
 残念ながら年代が全く重ならないため、佐伯が南次郎についてそれほど多くを知っているワケではない。永遠に残る、記録という『結果』と・・・・・・あと越前兄弟に相通じるものをさらに引き上げたら彼になるのだろうといった、漠然としたイメージ。
 だが・・・
 ―――逆に、リョーガと対戦してみると確かに彼の息子なんだろうなという確信が持てる。そう思われる一面を、確かに持っている。
 (なら、俺も『サムライ』になるべきなのかな?)
 茶化して考える。こちらはこちらで何でこんな名前になったのか。あまりにヘタレな父親と逞しすぎる母親を足して2で割るとこの辺りになるのか。名前に見合った感じになれという願いあるいは嫌味が篭っているのか。
 (どちらにせよ・・・・・・)
 佐伯はクッと小さく笑った。皮肉げな笑みで考えるのはひとつ。
 (生憎と、俺はサムライにはなれそうにないや)
 放つのは、不二の技カットサーブ。利き手が逆のため、バウンドした後球は向かって左側へと跳んでいった。
 球そのものを見たか、それともこちらの目線を追ったか。リョーガはしっかり対応してきた。それを待たず飛び出す。
 元々コートの対角を狙って打った球。打った自分、返すリョーガは共にシングルスコートからはみ出している。コートは全てオープンスペースとなっていた。
 さてリョーガはどこに打つか。普通ならほぼストレート、こちらからは最も遠く。ネット際に落とす手もあるが、前に出ているのを考えればベースラインまで思い切り打ってくるか。仮に追いついたとしても、返せないか体勢を崩されるか。
 そう考えた佐伯の予想通り、普通ではないリョーガはあえてクロスに打ってきた。挑発兼からかい。打つのを待って飛び出せば追いつけていた位置に。
 筋肉の動きで先読みし、即座に戻る。さっさと飛び出したのには他にも意味があった。脚のバネを使い加速を稼ぐためだ。
 ネット際で追いついた佐伯。ドロップショットの体勢でコートを見れば、もうリョーガはすぐ目の前まで来ていた。リョーマ同様一本足スプリットステップで来たのだろうが、半端ではない瞬発力だ。
 向かいでリョーガが笑っている。ここでドロップを打てば向こうの思う壺。ハマりたくないなら真正面からの勝負を受けろ、と。
 だが、
 (悪いなリョーガ。俺そういうの嫌いなんだ)
 優しく受け止めた球を、佐伯は上へと跳ね上げさせた。跳ね返り力を利用できない分腕に痛みが走ったが、この辺りは仕方がない。
 完全に裏をついたロブ。逃げの戦術に、特にリョーガに賭けた客らから批判が飛ぶが気にしない。自分はそういうヤツだ。
 が――――――
 「甘めえぜ佐伯! お前の手なんざお見通しだ!!」
 一声吠え、リョーガがその場で跳び上がった。スマッシュ狙いだろうが、その程度で追いつけるほどの球は―――いや。
 (助走か・・・!!)
 先ほどの笑みがブラフ。リョーガの方こそ真正面から勝負を挑む気はなかったという事か。
 ダン!!
 目を見開いた佐伯の脇をすり抜け、ダンクスマッシュがコートへと叩きつけられた。
 《ポイント
Ryoga! 4040!》
 審判の声を聞きながら、リョーガが着地した。膝を曲げ勢いを殺し、
 こんな事を言って来た。
 「確かこんなサムライがいたか。決闘の時間にわざと遅れて相手苛立たせたり、場所に向かおうと部屋出た途端攻撃仕掛けたり。まあ、俺もよく知んねえけど」
 まさか本当に知らないワケでもないだろう。わざわざこんな例が出るのならば。
 ぼんやりと話すリョーガに、佐伯は薄く笑ってみせた。
 「あああったな。遅刻は確か・・・・・・
  ―――佐々木小次郎と対決した宮本武蔵の話か」
 わざとらしく含みを持たせて言えば、リョーガもあっさり乗ってきた。
 「ま、勝ちゃいーんだよな。勝負なんつーのは」
 あっさり乗って――――――あっさり言った。
 勝つために定石は捨てる。世間一般で曰くの『サムライ』のイメージとは真逆なような気もするが、
 ・・・思ったよりも、自分とリョーガは似ているのかもしれない。目的のために手段は選ばない。お飾りの理念は振り回さない。
 そして、そのリョーガが宣言した。「自分が勝つ」と。
 互いの目的は同じ。邪魔なのは互いの存在。ならばどうするか。





























 ――――――――――――――――――潰してしまえ





















































 そして・・・










 《
RyogaKou双方死亡につき、この試合は無効とします!》















―――エピローグ








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 なんといきなり死んでます2人とも! これでいいのか!? もちろんいいんです(勢いのみでの押し切り)!!
 それはともかく、関係ないところで無駄に長かったこの話も次で最期・・・もとい最後です。2人はこの死を乗り越え再びめぐり合える事が出来るのか!? これでエピローグが来世の話になってたら大爆笑。とりあえずそんな事はないですよ?
 なお今回出てきた侍らの話。部屋出た途端の一撃も武蔵なのかと思っていたのですが調べたらなかったんですよね。う〜みゅ。誰がやったんだこんな面白すぎる・・・じゃなかった。卑怯すぎる事。
 そしてサエと不二の幼馴染説で言われるつばめ返しが今更ながらにようやっとわかった自分もどうかと思います。佐々木小次郎の必殺技だったんですね。しっかしサエが美形かつ何だか好青年っぽいトコ含め真似ているのなら、なぜ長ラケットを持っているのがダビデになったのか。物干竿と称して(からかわれて)ぜひサエに持って欲しかった・・・!! 実際前でちょこまか動くサーブ
&ボレイヤーの彼が持つと邪魔でたまらないからでしょうが。

2005.7.1019