成功例1―――千石
「な〜んっかイ〜イこっとな〜いっかな〜♪」
適当な歌を口ずさみながらコート脇を歩いていた千石は、
「・・・・・・と?」
さっそく『イイこと』に遭遇した。
「ラッキ〜♪ 財布じゃん」
動体視力と共に優れた視力で、遠くからでも正確に認識。不自然ではないように軽い足取りで歩み寄り―――最早走っているような勢いだが、走るよりも早く移動する縮地法などという歩き方もあるのだからこれはこれでいいのだろう。実際誰も不思議がらなかった―――、拾い上げる。
確かに財布。それも高そうなものの上結構ぶ厚い。
「相当〜に、期待してオッケーって感じ?」
ちらちら周りを確認し、開・・・・・・こうとした。
「・・・ん?」
財布から何かが垂れている。小さなキーホルダーだった。わざわざ革にキリで穴を開けて通してある。
そんな苦労をしてまで付けられたキーホルダーは、
全てを如実に語っていた。
<Saeki>
そっ。
そそそっ。
そそっ。
財布を元の場所に置き、ムーンウォークで数歩遠ざかり踵を返すと、
「さあ〜って。
か〜わいい〜子〜はい〜ない〜かな〜♪」
千石は何事もなかったようにるんたるんたスキップを刻んだ。
失敗例1―――忍足