成功例?―――英二(entrapper大石)
四天宝寺の子連れコンビ(誤)に続き、今度は青学の子連れコンビ(これまた誤)が移動中に。
「あれ?」
「どったん大石?」
「ああいや・・・。
そこ、何か落ちてるんだ」
「うり?」
指差され、英二が走り寄った。指摘した大石も続く。己で指摘しつつなぜ相方に取りに行かせるのかと不思議がられそうだが、残念ながら俊敏性で大石が英二に勝つ術はなかった。
大石がたどり着いた時には、英二はそれを拾い上げていた。眺め回し、
「財布だねえ」
「財布だなあ」
繰り返す。オウム返しになったがまあ仕方あるまい。見ただけでわかる事などせいぜいこの程度・・・
「誰のだろ?」
「佐伯のっぽいぞ?」
「へ?」
きょとんとする英二。
見ただけで持ち主がわかるなんてまるで大石はエスパーみたいだにゃ〜・・・と如実に語る瞳に手を振り、
「違うから。ほらそこ。キーホルダー下がってる」
「ほえ?」
英二からは丁度死角になっていた手の下。器状にしたそれを目線より持ち上げると、確かに銀色のキーホルダーが下がっていた。
そこに彫り込んである<Saeki>を見つめ・・・・・・・・・・・・
ばしっ!!
「何捨ててるんだよ!?」
「やべえぞ大石俺達は何も見てなかったああそーだ今のは幻覚だ俺らは練習中ださーとっとと行くぞお!!」
それこそ素晴らしい俊敏性で財布を元の場所に戻した英二は、人格を少し崩壊させたまま大石を引きずりその場を離れた―――離れようとした。
・・・・・・が。
「いや今のは紛れもなく現実だから・・・ってお〜い英二・・・・・・」
生真面目人間大石は、やはりせっかく見つけたものをそのまま放っておくのが気になるらしい。
何とか戻ろうと藻掻く大石。その藻掻きが、
ぴたりと止まった。英二が止まって。
「・・・英二?」
静かな気配を感じ見上げる。こちらの首根っこを掴んだまま、英二は立ち止まっていた。
「・・・・・・英二?」
何とか引きずりから体勢を立て直す大石に、
英二が縋り付いてきた。
「え、英二・・・//!?」
照れる大石を、英二は大きな瞳でじっと見上げ、
首を小刻みに振った。
甘ったるい・・・なぜか怯えた声で、囁く。
「な〜あ、止めようよ大石。アレ拾うの」
「なん・・・で?」
「何でもいいから。
拾わないでくれたら、俺大石の言う事なんでも聞くからあ〜・・・」
「何でもお!!??」
大石が素っ頓狂な声を上げた。
英二を見下ろす。潤んだ目で見上げる英二。それこそ幻覚ではなさそうだ。
ぽんぽんと英二の頭を撫で、
「・・・・・・・・・・・・わかった」
「大石〜〜〜〜〜〜!!!!!!」
抱きついてくる英二に、
大石は命じた。にっこりと笑って。
「合宿参加中、寝坊は一切禁止な? 起こしたら1回で起きろよ?
約束だからな、英二」
「ゔゔっ・・・!?」
朝が苦手だという事でもないのだが、合宿開始以降英二は毎朝大石に苦労をかけさせていた。
何せ朝から晩までみっちり練習オンパレード。いくらテニスが大好きだろうが回復の早さには自信があろうが、出来れば朝は1分でも長く寝たいと思う。しかもそんな大石が同室者となれば、逆に夜はすぐ寝たくなくなる。
大石の今の命令は、それら全てが禁止という意味を持つ。
「うぐ〜・・・・・・」
唸ってみる。大石の笑みは全く揺らがなかった。
暫し睨み合い、
降参したのは英二だった。
財布と大石の間で視線を3度ほど彷徨わせ、
「・・・・・・・・・・・・わーったよ。けど代わりに朝はキスで起こせよ!?」
「はいはい」
むくれる英二の頭を苦笑しつつ撫で、
大石はちょっぴりショックに打ちひしがれていた。
(英二・・・。俺との毎日は、佐伯に財布を届ける事以下だったのか・・・・・・)
・・・・・・そんな大石は、もちろん佐伯の事を『不二の幼馴染の好青年』としか知らなかった。
失敗例?―――手塚