成功例3―――柳生(Messiah仁王)


 「おや?」
 「どーした柳生?」
 「そこに何かが落ちています」
 「ん〜?」
 眼鏡を上げる柳生に倣い、仁王も目を細め何かとやらを見てみた。目はむしろ良い方なので普通によく見える。財布だった。
 それでも健気に近寄る柳生に遠慮し正解は言わず、後ろからのんびりついて行く。拾い上げられたそれはやはり財布だった。
 「届けないといけませんね。拾ったからには」
 「届ける? 先生にでもか?」
 「違います。幸い、持ち主の名が記されていましたので」
 「ピヨ?」
 近くで見せられる。見間違いはないだろう。<
Saeki>と書かれたキーホルダーで。
 「では、参りましょうか」
 「待ちんしゃい」
 己の宣言通りとっとと歩き出そうとした柳生を止め、仁王は指を立てて説明した。
 「やけん俺らはヤツと違う班じゃ。練習中に俺らがのこのこ行っても監督に怒られるじゃろ」
 ・・・という名目で、実際のところ自分達が渡したくはない、と。
 素直な紳士様は名目の方をその通り受け止めたらしく、時計を確認し1つ頷いた。
 「それもそうですね。それでは後ほど―――」
 言いかけ、止まる。視線を追えば、その先には幸村がいた。本日佐伯と同じ班の幸村が。
 「丁度良かった」
 作戦変更。
 「では幸村君に―――」
 「ああ待ちんしゃい柳生。じゃったら俺が渡しといちゃる。柳生は早よ行きんしゃい。真田は厳しいとね」
 「そうですか? ではお言葉に甘えて。
  それでは、宜しく頼みますね仁王君」
 「任せんしゃい」





 「幸村」
 「ああ真田か。どうした?」
 「お前に折り入って頼みがある」
 「お前が? 俺に? それは珍しいな」
 「お前は確か佐伯と同じ班だったな。これを奴に届けて欲しい」
 「財布・・・? どうしたんだ?」
 「そこで拾ったのだがな。
  俺が届けるのが一番良いのだが、練習が始まってしまう。遅れるワケにはいくまい」
 「なるほどな。生真面目なお前らしいよ。
  わかった。じゃあ渡しておくよ」
 「うむ。かたじけない」
 「いいや。お前の頼みなら
な、仁王
 「む?」
 振り向く男に、幸村はいつもと同じ薄い笑いを浮かべた。
 「真田にしては口数が多すぎるよ。
  それにしても」
 財布を掲げる。
 「まさか、自分だけ逃げようなんて・・・
  ―――思ってないよな?」
 「ピヨ」


失敗例3―――白石