失敗例3―――白石
「ん?」
白石がそこを通りかかった時、なぜかリョーガと英二は備品のガットで後ろ手・足・首を縛られ、その脇では佐伯が財布から1円玉まで抜き取っていた。取り残しがないか、逆さにして振っている。
「何や自分ら。随分オモろい事やっとんねえ? ソフトSMか?」
「ハードだろコレ!? 引っ張ったらもげて死ぬじゃねえか!!」
「つまり引っ張らんと死なんのやろ?
ええやんそんまんまで。似合っとんで自分ら」
「ああそーかよありがとよ!!」
礼を言われたので切り上げて、白石は改めて佐伯を見やった。とても大興奮の様で、「っをを!? さっすがリョーガ!! あれだけ巻き上げてんのにまだこんなにあんのか!! ダメだぞ菊丸も見習わなきゃ」などと怪しい笑みを浮かべる佐伯を。ちなみに隣に捨てられた財布はとても薄っぺらかった。
じっと見つめ・・・
「―――何や。ホンマに他んヤツんやったんか。千歳も紛らわしいわ」
「何がや?」
ちなみにこう尋ねたのは忍足である。あからさまに話題の中心に持っていかれた筈の佐伯は、その事にすら全く気付かず金勘定を続けている。さすが日々様々なバイトで鍛えた佐伯。異様に数えるのは早い。が、
「・・・とりあえず7回数えて変わんのやったら8回数えても変わらんやろ」
「いやもしかしたら変わるかもしれないぞ? なにせ俺の知ってるヤツは3回見直してなお解答欄に答えを書き忘れた事に気付かず、必死こいて書き込んだ計算を全てパーにしたからな」
「言うてやるなやそれは。可哀相やん管理人」
「・・・ちゅーか話進めん自分ら?」
忍足に静かに突っ込まれ、白石はぽんと手を叩いた。・・・・・・佐伯は改めて勘定に戻った。
気にせず続ける。
「千歳と金[きん]がな、さっき財布落ちとんの見つけた言うとったんや。
<Saeki>言うキーホルダーついとったから最初は佐伯のかー思たけど、もしかしたら他のんかもしれん思て置いてきたらしいわ。そん内モノホン取りに来るやろいう事で」
「ホントか!?」
白石の説明終りを待って佐伯が声を上げた。いや、佐伯が声を上げるだろう事を予測し、白石が早口で切り上げたためそうなった。
何にせよ説明を聞いて佐伯が驚いた。
「それだ!! きっとそれが俺のだ!!」
「? 今持っとんやん、財布」
『つーかこの展開見て今だに俺らのが没収されたって気付かねーのかよお前は!?』
わめく英二とリョーガを無視し、佐伯は白石に詰め寄った。
握り潰す勢いで肩に手をかけ、
「さっそく連れてってくれ!!」
「せやな」
現場へ連れて来られた。財布はなかった。
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・しゃべらへん? 誰か」
「そーだな」
「このまんまだと文章なのに放送障害とかワケわかんねえ騒ぎになりそうだし」
忍足・英二・リョーガ―――今回の事件における被害者ら―――がひそひそ囁いた。己の身に覚えのない罪を被せられたのだ。そりゃあ結末が気になってたまらない。ついでにここに財布があったら、それを手に逆切れされるまで佐伯を罵倒しようと心に固く誓っていたのだ。
なのに・・・! それなのに・・・・・・!!
―――と悔しさに震えていた3人はまだマシな方だった。
呆然と、完全にここではないどこかに旅立っていたうちの1人が戻ってきた。
「・・・・・・こ・・・!! ここにあったんや!! あった言うとったんや!!」
「ほう?」
「せや! せや! きっと千歳が場所間違ごうて言うとったんや!!」
「ほう」
「あるいは俺担ごういう魂胆や!!」
「ほうほう」
必死に己の正当性を訴える白石に、
今だ戻ってこない佐伯はただ頷くだけだった。
素敵な笑顔で、尋ねる。
「楽しかったか?」
「・・・なん?」
「俺をからかって、楽しかったか?」
「やから―――!!」
「お前に惑わされるがままここまで喜び勇んでやってきた俺は、お前からしてみたらさぞかし可笑しかっただろうなあ。笑わずにいるのも苦労したんじゃないか?
さすが役者。見事な芝居だったなあ。すっかり騙されたよ。びっくりだ。
俺の金への執着心はもちろん知ってるはずだしなあ。お前がまさか、こんな人の足元を見る卑怯卑劣な罠を仕掛けるとは思いもしなかったよ」
「聞いてえな佐伯!! 俺はそないつもりこれっっっぽっちも―――!!!」
「白石」
「はひ・・・」
「選べ。俺に殺されるか、それとも自ら俺に詫びた後死ぬか」
己の財布を差し出し土下座する賢い白石を遠くから眺めながら、
「今の台詞はそっくりそのままアイツに返してえよな」
「せやね」
「つーか誰か返してくれよ・・・」
『同感』
そう思いつつも結局何も出来ない3人は、ただ被害者4号に哀れな視線を送るだけだった。