正解―――跡部&幸村そして・・・
「ああどこに行ったんだ俺の財布は。このままじゃ気になって練習にも身が入らないじゃないか!!」
どごっ!!
ぎゅるるるる―――!!
「とか言いながらしっかり入ってんじゃねーか!!」
涙目で何か言ってきた甲斐に、動揺し過ぎてミュージカル調になっていた佐伯は元に戻って静かに答えた。
「入ってない。復讐に入ってるだけだ」
「お前の中で練習の順位はどこまで低いんだよ!?」
「お前が取ったんじゃないのか?」
「何さらっと犯人押し付けしてんだよ!? 俺がやる理由がねえだろ!?」
「オジイの見舞金だと有り金ほぼ没収されたせい」
「ぐ・・・た・・・確かに動機はばっちりだけどよ!!
だったらお前練習相手にされた時全力で拒否してたに決まってんだろ!?」
「思いっきりされたじゃないか。傷ついたぞ俺は?」
「尚更してたわ!! しかも物理的傷は俺の方がついたじゃねえか!!」
「じゃあその恨みも含めてもっと」
「おかしいだろ!? そっからずっとお前の監視下だったじゃねえか!!」
「その監視下をすり抜けて」
「出来るかあ!! ラリーの最中どうやって抜け出すんだよ!?」
「そこを何とか。この通りだ」
「やっぱ押し付けてんじゃねえかああああ!!!」
吠え、甲斐はお辞儀をする佐伯をびしりと指差した。
「いいか!? たとえ俺を犯人にしても事件は終わらねえんだぞ!? 俺は既にお前に金品巻き上げられ済みだ!!」
「――――――っ!!!???」
ミュージカル調の次は何調なのか、雷バックに驚きを表し、
・・・次の佐伯のターゲットはもちろん金持ちとなった。
「そうかお前が犯人だったのか景吾」
「? 何がだ?」
突然話題を振られ、隣で練習していたかの跡部財閥総帥息子は手を止めないまま首だけこちらへ向けてきた。
佐伯を見、甲斐を見、
「―――そこであっさり戻るなよ!!」
「だってぜってーくだらねえ話だろ?」
「・・・・・・」
何の疑いもなく言い切られ(しかも事実その通りなので)、甲斐は黙り込むしかなかった。
そしてそんな逆境をものともしない佐伯はしゃべり続けた。
「とぼけるな! お前が犯人だって事はわかりきってるんだぞ!」
「・・・まあ、今自分捏造[つくり]上げよった話ん中では確かにわかりきっとんやろな」
冷静に呟く被害者4号白石。かなり遠くのコートにいた筈なのだが、誰かを道連れにしようと舞い戻ってきたようだ。
みんなの注目にさらされ、跡部はようやっと止まった。正確には、打ち合っていた地味`s2人が止まったため必然的に跡部も止まらざるをえなかった。
現在選抜合宿ならではの練習として、跡部らの班はシングルス対ダブルス戦を行っている。こうする事で、普段とは違う攻撃や守備について学ぶらしい。おかげで跡部は喜多と新渡米にからかわれブン太に笑われジャッカルに慰められていた。さすがダブルス。シングルスにはない波状攻撃だ。
2人が止まったのは驚いてではない。ひたすら地味さが目立つ2人だが、付き合う相手がことごとく地味とかけ離れているためこの手の事態には完全に慣れきっていたからだ。
そんな2人がサインプレーもなしに語る。絶対問題が解決するまで跡部が解放される事はない、と。
跡部もまた眼力により悟る。ああ今コイツらさらっと俺の事見捨てやがったな・・・と。
ため息をつき、跡部は佐伯に向き直った。
向き直った後さらにため息をつき、
「で? 『犯人』って、何探ししてんだ?」
「もちろん犯人」
「だから何の?」
常になく理解の遅い跡部に、忍足とリョーガが不審げな目線を交わした。この2人ですら最初の発言でもう大体何かは察したのだ身に覚えがあるかはともかく。幼馴染の中でも最も佐伯とシンパシーのある(というと非常に怒られる)跡部がわからないのはおかしすぎる。
佐伯も同じ事を思ったのだろう。ついに痺れを切らしたらしい。吠える。
「だから!! お前が俺の財布を盗んだって話だ!!!」
「お前の財布?」
聞き、
なぜか跡部はぱちくりと瞬きした。
不思議そうに首を傾げる。不審そう―――ではない。心底不思議そうに、だ。それはそれは、この場にいる中では佐伯当人に続いて跡部との付き合いが長い忍足ですら、そんな表情を見るのは10年ぶりだと思うくらいに珍しいものだった。
―――「どないしたん跡部?」
問おうとした声は、
次ぐ跡部の声に遮られた。
きょとんとしたまま、問う。
「佐伯、お前財布なんつー文明的なモン持ってたのか? 初めて知ったぜ」
「あれ・・・?」
コート中を、無音の嵐が吹き荒れた。
佐伯が俯く。ポロシャツをまくりハーフパンツのゴム裏を探り、靴を脱いで中を見て。
照れ笑いで頭を掻いた。
「そういや盗難防止にいろんな場所に入れてるんだった。失敗失敗」
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
*決して今現在、音声障害が起こっているのではありません。
永遠に続きそうな沈黙を、
破ったのはこの男だった。現在の<Saeki>財布の持ち主。
「あれ? じゃあコレ、佐伯のじゃなかったのか」
コート入り口に現れた幸村が、財布片手に首を傾げている。その後ろでは真田もまた、何事かと渋い顔を浮かべていた。遠〜くのコートでは真田(本物)が、己のドッペルゲンガーを見たと真剣に驚いている。
佐伯は、明らかに分厚い袖を摩る手を止めた。
じっと幸村の手元―――手元にある、こちらも分厚い高級そうな財布を見つめ・・・
「そう!! それだ!! それが俺の探していた財布―――!!!」
『嘘つけええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』
どごどごどごどごどごごごごごごごご!!!!!!!!
Warning! Warning! Warning!
被害者みんなに目出度くボールぶつけの刑に処される佐伯から目を背け。
「じゃあ、これは先生にでも預けておこうか」
幸村は、何事もなかったかのように歩き出した。後ろにいた者とすれ違い―――
微笑む。
「よかったな仁王。何事もなくて」
「プリッ」
Warning! Warning! Warning!
ちなみに、財布は臨時職員さんのものだった。
受け取った『サエキ』さんは、実に嬉しそうに言った。
「ありがとう届けてくれて!! やっぱ名札つけといて良かった!!」
喜ぶ彼女は、もちろんソレのせいで起こった騒ぎを知らない・・・・・・・・・・・・。