Chocolate Kiss
〜side F〜
2
「じゃあ次はチョコを溶かそうね」
そう言って、越前をガス台の前に誘導する。
後ろには食卓。
ガス台には湯気を立てた大きめの鍋があり、
そして食卓には氷水の入ったボールがある。
「一般的にチョコは湯煎にかけて―――つまりボールを60度位のお湯につけて溶かすんだけどね、それだけだと冷えて固まった時表面に白い物がでる場合があるんだ」
「ふーん・・・」
頷く越前に、さらに続ける。
「だから『テンパリング』って言ってね、溶かした後一度氷水に入れて冷ますんだ。そしてまた溶かす。この操作を何度か繰り返すとそれは出なくなる。
―――というわけで、さっそくやってみよう」
にっこりと微笑んで見せる。
嬉しくてたまらない。
嬉しくて―――楽しくて。
「まずはお湯ね」
言いながら、鍋の中に適当なカップを入れて・・・・・・
「わっ・・・!」
エプロンの上から越前にゆっくりとかけていく。
じわじわと上から染み込むお湯。
それと共に、じわじわと透けていくエプロン。
「次は水ね」
「ひっ・・・・・・!!」
今度は水を流してやると、越前は誰でもする反応を返してきた。
誰でもする、その反応。
なのに君がするとひどくそそられる。
逃げないように、抱きかかえていた腰から震えが伝わる。
全身に鳥肌を立て、
そして透けたエプロンを持ち上げるように、胸元の実もまた、堅くなっていて。
「冷めたらまたお湯につけて」
再びかけたお湯に、越前の硬直が一瞬だけ溶ける。
そう。一瞬だけ。
エプロンでは吸収しきれなかったお湯が、徐々に彼を侵していき―――
脚の間にまで到達した。
今まで何とかエプロンによって隠されていた部分。
今では濡れたエプロンがぴったり付いて、その姿を露にしている。
よほど感じ易いのか、既に形を変え始めているそれを。
「えっちだなあ、越前君は」
くすくすと笑って、青褪めた越前の体に人差し指を滑らせる。
流れた水を伝うように、
首から、胸へ。
両方の飾りを弄って、更に下へ。
脚の間にまでなぞらせると。
「やだ!!」
越前が目を閉じ、全てを隠すべくしゃがみ込もうとした。
「だめ」
薄く笑って、越前の腰を両腕で抱き、無理矢理立たせる。
「しゃがみ込んじゃ作れないでしょ?」
「こんなんで・・・作れるわけないじゃないですか・・・!!」
最もな意見を返してくる越前を見て、思う。
それもいいかもしれない。
冷たく返した。
「作れない?
じゃあ仕方ないね。
あきらめようか。渡すの」
「〜〜〜!!!」
その言葉を受けて、力の入らないであろう体を預けてきてチョコの入ったポールを手に取る越前に、苛立ちと、そして安心が同時に沸き起こる。
だがどちらにしてもやることは同じ。
「じゃあ続けようか。
チョコの中に水を入れないように注意してね」
笑顔でそう言う。
それが―――次の『遊戯[アソビ]』への伏線。
疑わずに作業を再開する越前にさっそく仕掛ける。
「あ・・・や、先、ぱ・・・・・・」
「ほら。ダメだよちゃんと集中しなきゃ。水入っちゃうでしょ?」
「そん・・・・・・な・・・・・・」
後ろから抱きかかえているのをいい事に、手を、舌を、思う存分越前の体中を這いまわらせる。
首から肩を舐め、
胸のしこりを弾き、
そしてエプロン越しに脚の間を掴む。
「あっ・・・・・・!!」
びしゃりっ。
重なる刺激に嬌声を上げ、
越前が大きく沈ませたボールに、跳ねたお湯が流れ込んだ。
「入っちゃったね、水」
「失敗・・・・・・っスか・・・・・・?」
さあ、どっちと答えよう。
Yesと言おうか。
言って、渡せないようにしてしまおうか。
そして・・・・・・これでもうこの『チョコケーキ作り』を終わらせようか。
一瞬だけ悩み、
「―――ううん。まだ大丈夫」
優しく、そう言う。
「え・・・・・・?」
泣きそうな顔で見上げてくる越前に、笑顔で答える。
「チョコだけを使う場合は絶対水を入れちゃダメって言われるけど、何かと混ぜる場合はむしろ水を少し加えた方がチョコが分離せずに済むんだよ。
これからそのチョコは生地と生クリームに混ぜるから。
それにまだチョコは余分にあるしね」
だから―――まだ終わらせないよ。
渡させなきゃ、意味がないんだ。
真意を伝えず固められた上滑りする理論武装に、
「よかった・・・・・・」
越前は一言、そう呟いた。
花のような、笑顔と共に。
本当に嬉しそうに。
「・・・・・・・・・・・・」
その様子を見て、そっと歯を噛み締める。
彼にそれだけの想いを向けられる人物がいる。
誰だ? その人間は。
いや。自分でないのなら誰であろうと同じか・・・。
「―――先輩?」
見上げてくる越前に、笑顔で返す。
「ううん。何でもないよ?
じゃ、続けようか」
「はい!」
珍しく子どもっぽく返事してくる彼に、
全ての気持ちを内包した、
笑顔の仮面で。
憎しみも、
怒りも。
この気持ちを、君が知るのはいつ?
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2003.2.11〜12
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