Chocolate Kiss
side F







「次はいよいよスポンジ作りだね。まずは卵白―――卵の白身を泡立てようか。
―――そこに座って」
促すままに、イスに座る越前。
これだけやってるのに、なんでためらいなく従えるんだろうね?
誘ってるから?
それとも・・・・・・よっぽど作って渡したいから?
「そしたら脚開いて」
「は・・・?」
さすがにいぶかしげな顔をする彼。
ボールとハンドミキサーを渡して、
「脚で挟んで固定するとやり易いよ。それだったら座ったままで疲れないしね」
「はあ。そーっスか・・・・・・」
「じゃあ・・・ツノが立つまで泡立ててね」
「ツノ?」
「泡立て器を持ち上げてね、ぴんと先が持ち上がるくらいまでって意味だよ」
「ういーっす」
と、越前はボールを膝で挟んで、
ハンドミキサーのスイッチを入れた。
『強』・『中』・『弱』の3段階のスイッチの『弱』に入れ、
ボールの中に入れた。
ウィィィィィ・・・という振動と共に越前の脚が小刻みに揺られる。
真剣な、頑張る彼の顔を横から覗き込み、
「・・・・・・何スか?」
「泡立てる時はね―――泡立て器も動かした方がいいよ」
両手を後ろから伸ばす。
ハンドミキサーに、そして―――ボールに。
「っ・・・・・・!」
広げた脚ギリギリまでボールを手繰り寄せると、冷たさが伝わってか越前がびくりと反応した。
「それに手早く泡立てられるように威力は『強』にしなきゃ」
「うあ・・・!!!」
スイッチを切り替え、
ボールの壁面へ当て、わざと振動を外へ伝わらせる。
「や・・・! 先輩・・・・・・!!」
まだ声変わり前のボーイソプラノでの嬌声。
両手に力を込めてくるが、体格も、そして体勢も僕に有利で。
「やめ・・・不二、先ぱ・・・あ・・・・・・!!」
もがいていた越前の体から力が抜けていく。
声だけは殺したいのか、唇を真っ白になるまで噛みしめて、
「ふ・・・・・・う・・・んあっ・・・!」
そしてその戒めも快感を前に溶けていく。
両手を腕に乗せてきて、
背もたれ越しに胸に持たれてきて、
「は・・・あ・・・・・・」
ただ、涙で潤んだ艶やかな目で見上げてくるだけで。
そんな越前を見ていると、
嗜虐心が沸き起こってくる。
自分は何もしていないのに鼓動が早く、激しくなって、
眩暈がしてきた。
そこから逃れるように視界を移した―――その先にあったものに、
くすり、と笑みが零れた。
「僕は卵白のツノを立てて、って言ったんだけど?」
ハンドミキサーのスイッチを切り、
こっちを勃[た]てて、どうするのかな・・・・・・?」
「――――――////!!」
『こっち』と言いながら指でなぞる。
最も与えられた快感を忠実に示すそこは、
エプロン越しでもしっかりわかるほど、形を変えていた。
ギリギリまで張り詰めたそれを、
エプロンごと無造作に握り、
「『泡立て』は、手早くやらなきゃね」
無造作に扱き上げた。
「や、あ、あ・・・・・・あ!!」
僅か数回で達した越前からあっさり手を離す。
ただ、熱を放散させただけ。
それ以上はやらない。
1人で盛り上がられちゃ興ざめでしょ?
赤い顔で、消耗して荒い息をつく越前。
結局僕が持ちっぱなしだったボールとハンドミキサーを掲げてみせ、
「越前君、少し疲れてるみたいだね。
次の作業やっておくから、その間休んでるといいよ」
「っ・・・・・・。けど―――」
「ああ、大丈夫。ただ混ぜていくだけだしね。
―――じゃあハンドミキサーのところは僕がやっておくから、普通の泡立て器になったら交換ね」
「ういーっす・・・・・・」





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「―――で、最後に粉を混ぜるんだけど、ここからは混ぜるのも特に慎重にね。立てた泡はつぶさないように、泡立て器で生地を救い上げては隙間から落として、その繰り返しで大体粉がなくなるまで」
「? ? ?」
「つまりこうやるんだよ。
―――じゃあ今度はこっちに立ってねv」
「はあ・・・」
数分休んで何とか動けるようになってきたらしい越前を今度はイスの前に立たせる。
「少し前に屈んで」
「はあ・・・・・・」
「そしたらエプロンの裾持ち上げて」
「はあ!!?」
この言い方は気にいらなかったらしい。越前が思い切り後ろを振り向いて叫んできた。
実のところ水と越前の愛液で蒸れたエプロンにはもう彼の望む、『隠し』としての意味はない。まあそれでも嫌がるのは精神的な安心感を得たいからか。
それを取り払うべく、『口実』を設ける。
「けどそうしないと汚れちゃうし」
そう言い、ぴったり密着したまま越前の体に体重をかけていく。
前に傾いた越前の体が、イスに置いたボールに近づいていき―――
垂れたエプロンの裾が生地に入り込みそうになる頃、意味を察したか越前がゆっくりと裾を持ち上げていった。
彼にとっては屈辱だろうに。
「いい子だね・・・」
羞恥心に真っ赤になる彼の耳朶にキスをし、更に体重をかけその体を沈めさせた。
ぬぷり、と。
そんな音がしたわけではないが、イメージとしてそんな音を立てながら、
先ほど熱を解放させた越前のものが、冷たさを求めるかのように生地の中に沈みこんでいった。
「ん・・・気持ち・・・ワル・・・・・・」
身をよじり、目を閉じて嫌がる越前。
「だめだよ、ちゃんと見てなきゃ。じゃなきゃどうやるかわからないでしょ?」
本当に可愛いなあ、そういう仕草。
可愛いから―――もっと苛めたくなる。
「まず掬い上げてね―――」
「ひあ・・・・・・!!」
越前のそれを再び立てるように、泡立て器を回しながら逆撫でていき、
「―――そして落とすんだ」
「んや・・・・・・」
完全に泡立て器が離れ、支えを失って再び生地の中に落ちていくところに、上から生地をかける。
「これを何度か繰り返して、粉をある程度なくす」
そう言って何度も繰り返すと、
「あん・・・や・・・・・・は・・・・・・」
冷めかけた熱がまた灯ったのか、越前の息がまた荒くなっていく。
「先・・・ぱい・・・・・・。やぁ・・・・・・」
そう訴えてきても、その涙目も、その舌っ足らずの声も、全てが言葉を裏切っている。
本能[キミ]が望むのは理性[コトバ]の逆。
続けてほしい。
もっと。
もっと。
だから、僕は君の『望み』の逆を選んだ。
「混ぜるのはこのくらいでいいかな?」
泡立て器から生地を落とし、外に出す。
「え・・・・・・?」
「後はこの生地を型に流して焼くだけ。意外と簡単でしょ?」
「そう・・・っスね・・・・・・」
なんて言いながらも、がっかりする様子が手に取るようにわかる。
けどね―――これで終わりにするなんて誰も言ってないよ?
「で、型に流すときは生地を無駄にしないようにこのゴムベラを使ってね・・・」
手の届くところに置いておいたゴムベラを取り、
「ボールからちゃんと生地を取り除くんだ」
生地のついた越前のそれにゴムベラを滑らせる。
乱雑な愛撫。
いや。ただの『作業』か。
「うん・・・・・・ふ・・・あ・・・・・・」
それですらも越前にとっては快感のようで。
「淫乱」
耳元で囁いたこの台詞、君には届いたかな?
まあ僕にとっては都合がいいけどね。





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「さて、とりあえずこれで一段落、だね」
にっこりと笑ってそう告げる。
一段落。
ついたのはスポンジの方だけ。
中途半端に煽られた越前は一段落どころではなくて。
床にへたり込んで恨みと欲情の篭った眼差しを向けてくる彼をからかう。
「どうしたの? なんか『物足りない』って顔だね」
顔を赤くしながら面白いように怒りを露にする越前。
何か言おうと口を開くより早く―――
「今生地を焼いて膨らませているんだけどね。
―――『こっち』も、膨らませてみる?」
ズボンのファスナーを下げ、その中から自分のものを取り出した。
今まで越前の痴態を見ているだけだったけど、
それでもそこは緩く立ち上がっていて、
越前に全てを明かしていた。
タネは、出来れば最後まで隠しておきたかったけどね。
テーブルに軽く腰をかけ、
越前を招くように両手を広げる。
「『生地』が膨らまなきゃ、
『ケーキ』は作れないよ?」
ダメ押しの一言。
意味は考えなくても解るでしょう?
その言葉をイイワケに、
越前がこちらへと四つん這いで寄って来た。
「あ・・・・・・」
崇めるように掲げた両手を添え、
「ん・・・・・・」
舌でちろちろと先端を舐めて、
「ふあ・・・・・・」
小さな口をいっぱいに広げて頬張る。
その気持ち良さに、
「ん・・・っ・・・・・・」
思わず声が漏れた。
それを聞き取ったか、
「はふ・・・・・・」
越前の動きが激しくなる。
こういった事に慣れているのか、
最初は戸惑いながらも着実に敏感なところを突いてくる。
おもしろくない。
「んん・・・!!?」
越前の髪を引っ張り、無理矢理奥へと押し込む。
「ん・・・ぐ・・・・・・!!」
喉に詰まったみたいで、酸素を求めて暴れる彼を、
更に力を込めて引っ張る。
「ぐぐ・・・う・・・・・・!!!」
苦しそうに歪めた顔から、涙がぼろぼろと流れてきて、
―――それを見て限界が近い事を悟った。
彼の。そして―――自分の。
口の中いっぱいに張り詰めたそれが解放される寸前に、
チーーーン・・・・・・
オーブンが音を立てて停止した。
「―――はい、終わり」
それを合図に越前を解放する。
げほげほと咳込む彼を見下ろし、
まだ解放されていないそれを再びズボンにしまった。
「焼けたみたいだね。焼け具合、見てみよっか」
「あ・・・・・・」
ズボンの裾を掴んで、越前が驚きを含んだ声を上げた。
「何?」
「あの・・・先輩・・・・・・
・・・・・・何でもないっス」
俯き、掴んでいた手を放す。
ご不満?
くすり、と笑って、
僕はオーブンへと足を向けた。





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2003.2.1415