Chocolate　Kiss
<sup>〜side　R〜



１



「不二、先輩･･････」
「何？　越前君」
「あの･･･今日、暇ですか？」
「今日？　だったら部活が終わったら後は何もないけど？」
「えっと･･･だったら･･････」
「？」
「チョコ菓子の作り方･･･教えてもらえませんか･･････？」
「チョコ･･････？
―――ああ、そういえば今日って、14日だっけ？」
「〜〜//////」
かああああああ･･････
「いいよ」
「―――！！
ありがとうございます！」





Χ　　Χ　　Χ　　Χ　　Χ





初めて手にしたこの恋は


まだとても花など咲かせられないほど小さくて


初めて愛しく想ったアンタの心は


もう他の人のものかもしれないけど


もしも上手く作れたなら


渡してみようか


そして驚くアンタに


言ってみようか


「アンタが好きです」


って。





Χ　　Χ　　Χ　　Χ　　Χ





「じゃあ入って」
初めて来た不二先輩の家に緊張する。笑顔で促されるままに、とりあえず頭を下げる。
「ああ、始める前に着替えた方がいいよ」
「着替える？　何で？」
「チョコが服についたら落ちにくいから。特に制服になんてつけたら後で大変だよ」
「でも、着替えるものって･･･」
「ハーフパンツあるでしょ？　あとポロシャツ。あれだったら家でも洗えるし」
「ああ･･････」
頷いて、テニスバッグに手を伸ばしかけてふと止まる。
着替える･･････。それも半袖短パン･･････。
そんな事にいちいち反応する自分がアホらしくて、何もなかったように鞄を肩にかけた。
「じゃあ洗面所、案内するね」
「ういーっす」





Χ　　Χ　　Χ　　Χ　　Χ





台所に来た不二先輩を見て、どきりとした。
黒いハイネック。こげ茶色のチノパン。
初めて見た私服姿は、制服やジャージとはまた違う印象を与える。
髪や目の色にあう色。オートクチュールかと思うほどにピッタリ合った服は、細い彼の体をより強調している。
思わず顔が赤くなりそうなところで、先輩がやっぱり笑顔で訊いてきた。
「なんで、上着替えないの？」
「ポロシャツ･･･部活で濡らしたもんで･･････」
部活終了後いきなり水をかけてきた英二先輩のおかげでずぶ濡れになっていた。
こんな所でいるとは思わなかったから気にしなかったのに･･･。
だんだん俯いていくところで、先輩の声がかかった。
「じゃあエプロンつける？　そうしたらブラウス汚れずに済むし、あると便利だよね？」
「え･･･？」
何、に･･･？
―――ってもちろん料理にか。
「じゃあこれv」
「は？」
差し出された『それ』に目が点になる。
何･･･？　これ･･････。
『それ』はいかにも『新婚さん』が使ってそうなエプロンで、真っ白な生地でミニスカート並みの短さ。しかも裾と脇にはレースのフリルつき。
まだマシなのは無地なところか。『LOVEｖ』とか入ってなくてよかった。
「着なきゃ、だめっスか･･････？」
「うんv」
笑顔で頷く不二先輩。本気でこの人は何を考えてるのかわからない。
けどここでだだをこねて「じゃあ止めようか」なんて言われたらたまったもんじゃない。
「･･････わかりました」





Χ　　Χ　　Χ　　Χ　　Χ





「作るのはチョコケーキでいいかな？」
何だ。意外と普通のもの作るんだ。
「じゃあまずはチョコを刻もうね」





がしょ。
がしょ。
がしょ。
言われたようにチョコを刻んでいると、肩越しに先輩が覗き込んできた。
しかも両手を肩に乗せて。
手元がおぼつかなくなる。
両腕に力が篭る。
がしゅん！
がしゅん！
緊張して、わけがわからなくなる。
（〜〜〜〜////）
もっと家で料理をしておけばよかった。
部活では少しでもいいところを見てもらおうとしていたのに、
こんなにも情けないところしか見せられない。
恥ずかしくて、たまらない。
（やっぱ･･･止めればよかった･･････）
「力抜いて」
耳元に囁かれ、両手に先輩の冷たい手が重なる。
「右手は内側に丸めて。それに沿わせるように包丁を下ろすんだ。真っ直ぐにね」
言っている事は理想論。
やっている事はセクハラ。
そんな事を考える俺はおかしい？
ざしゅざしゅざしゅざしゅ･･･
「そう、上手いね」
なんて言われてもわからないよ。先輩の手の冷たさと体の温かさ、それしか。
「あと―――」
離させる手を、惜しく感じる。
と、離れ際に手の平を指でなぞられ、
手首を軽く握られ、
腕を摩り上げられて―――
はだけた首元から胸にかけて手が当てられる。
もう片方の手に後ろから背骨をなぞられて、
「―――っ」
「背筋は伸ばした方がいいよ」
押された手の感触に、息を飲む。
「それに―――」
今度は両手で腰を掴まれ、
「―――！」
「少し腰も下げた方がいいかな」
先輩の腰に当てられて、あるワケない展開を考え唇を噛んで声を殺す。
「ああ、そうそう」
さらにエプロン越しに足の付け根を揉まれて、
「足も開くといいよ」
「ぅあっ！」
密着した先輩の腹部を支えに両脚が開かれ、さすがに我慢しきれずに声が上がる。
淫乱みたいだ。
「せ、先輩！？」
「手、動かしてね」
振り向こうとしたのを、一言で止められる。
ただの一言。なのにそれだけで何も出来なくなって、俺はだた先輩の言うとおり手を動かすしかなかった。
その間にも、先輩の手はＹシャツのボタンを１つずつ外していく。
その落ち着いた動作に、そしてその行動そのものに、逃げよう、とか、嫌だ、とか、そんな気持ちは一切起こらなかった。
エプロンはそのままに、Ｙシャツだけが肩からすべり落とされる。
「せん･･･ぱ･･････」
その隙間を埋めるように項に唇を落とされ、髪の生え際を軽く舐められる。
「ん････････････」
再び手が腰に当てられて、ハーフパンツと下着の中に冷たい手が差し込まれる。
ゆっくりと、下半身を覆っていたものが全て剥ぎ取られた。
「や･･････！」
恥ずかしくて体ごと顔を背けたら腰を抱えられ、背けたせいで露になった項をきつく吸い上げられた。
「あ･･････」
ちくりと刺すような感覚に、思わず体が跳ね上がる。
弾みで切った人差し指から、血がぱたぱたと溢れ出した。
「切っちゃった？」
後ろから完全に束縛され、持ち上げられた手が口に含まれる。
指から伝わる、湿り気と温かさ。
「ふあ･･････」
「ん･･････」
舐められる感触が腰へと伝わり、快感で体が震える。
せめて先輩には嫌がっているように見てもらいたい。
これは『治療』なのだから･･････
「血ってさ･･････」
快感が、終わる。
２つの間で伸び、あっさり切れる唾液が現実を教えてくれた。
「チョコに似てると思わない？」
先輩がまな板に乗った大きめのチョコのかけらを摘む。
まだ包丁を持ちっぱなしの手が再び握られ―――
「それともチョコが血に似てるのかな？」
自分の指を、わざと切った･･････。
「な―――！？」
「君はどう思う？」
血の溢れる指と、手に持っていたチョコを口に突っ込まれる。
「ん―――！！」
手の平で口を押さえられ、混乱する意識の中で先輩の指の細さがダイレクトに伝わってきた。
もっと味わいたくて、舌を動かそうとしたら、
逃げるように、からかうように指が蠢きだした。
よっぽど慣れているんだろう。指は的確に弱いところを刺激していって。
「んん･･････」
頭がぼーっとする。
より味わえるように、閉じた目から快感の涙が流れる。
血なんてマズいはずなのに。
先輩の好みに合わせてチョコだってビターなのに。
口の中には濃厚な甘味が広がっていった。
「あ･･････」
ずるりと指が抜き取られる。最後まで味わい尽くしたくて唇をすぼめる。
欲しい。
もっと欲しい。
今まで味わった事のない衝動。ただ全身でこの人を求める。
なのに―――
名残惜しげに見上げる前で、先輩は拘束していた体を放し、ボールを手に取った。
「チョコ、刻み終わったみたいだね」
終わったら、これも終わりなの？
『チョコケーキ作り』はまだまだ長いんでしょ？
「じゃあ次はこれを溶かそうね」
『これ』
チョコと―――
俺の理性を。
トロトロに溶かして。
そしたらただ欲望に従ってアンタを求めるから。
そして再び固まった理性でもアンタに好きだって言えるようになるから。
もし叶うとしたらどんなに幸せなんだろう。
「うい〜っす」
裸エプロンで、顔を赤らめて、視線を逸らして、それでも普通に返事して。
あからさまに誘いすぎ？





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2003.1.29〜30</sup>