Chocolate Kiss
〜side R〜
2
「じゃあ次はチョコを溶かそうね」
と、ガス台の前に連れて行かれる。
後ろには食卓。
ガス台には湯気を立てた大きめの鍋があって、
そして食卓には氷水の入ったボールがある。
「一般的にチョコは湯煎にかけて―――つまりボールを60度位のお湯につけて溶かすんだけどね、それだけだと冷えて固まった時表面に白い物がでる場合があるんだ」
「ふーん・・・」
そういえばそんなものも出来るっけ。
「だから『テンパリング』って言ってね、溶かした後一度氷水に入れて冷ますんだ。そしてまた溶かす。この操作を何度か繰り返すとそれは出なくなる。
―――というわけで、さっそくやってみよう」
そう言う先輩が何かやたらと嬉しそうに見えるのは俺の気のせいなのか。
―――それとも嬉しいのは俺の方なのか。
何か起こればいいと―――そう願っている。
「まずはお湯ね」
言いながら、先輩はカップをその鍋の中に入れて・・・・・・
「わっ・・・!」
エプロンの上から俺にかけてきた。
じわじわと上から染み込むお湯。
まだ熱くはなくて、お風呂と同じくらいだったけど、
「次は水ね」
「ひっ・・・・・・!!」
またも流される感触に、驚きとは違う声が上がる。
冷たいものが、上からじわじわと伝ってくる。
まるで―――先輩の冷たい手に愛撫されてるみたいに。
抱きかかえた先輩の腕の中で、疼きに躰を震わせる。
全身に立つ鳥肌。
それと一緒に快感を示した胸のものもまた、立っていて。
「冷めたらまたお湯につけて」
またかけられたお湯の温かさに、一瞬だけほっとする。
そして―――ぞくりとする。
エプロンでは吸収しきれなかったお湯が、胸を、腰を伝って―――
脚の間にまで達した。
つーっと、幾筋も伝っていくお湯。
それが、全てを明かしていく。
今までの事全てを快感として捕らえていた、その事実を。
「えっちだなあ、越前君は」
バカにするように笑われて、泣きたくなった俺に先輩は追い討ちをかけてきた。
水の代わりに、今度は指が流れていく。
首から、胸へ。
突起を弄られ、更に下へ。
見られたくなかった部分に指が伸ばされ。
「やだ!!」
隠したくてしゃがみ込もうとしたのに、先輩の腕が邪魔をしてきた。
「だめ」
冷たく言われ、後ろから抱き込まれて無理矢理立たされる。
「しゃがみ込んじゃ作れないでしょ?」
「こんなんで・・・作れるわけないじゃないですか・・・!!」
破れかぶれで叫ぶ。
作りたいのに。作って、渡したいのに。
だが返って来たのは冷たい言葉で。
「作れない?
じゃあ仕方ないね。
あきらめようか。渡すの」
「〜〜〜!!!」
その言葉を受けて、俺は力の入らない体を先輩に預けてチョコの入ったポールを手に取った。
温まった鍋の中にボールをつける俺に、先輩が後ろから注意をかけてくる。
「じゃあ続けようか。
チョコの中に水を入れないように注意してね」
笑顔でそう言うから。
気付かなかった。
それが―――次の『悪戯[イタズラ]』への伏線だった事に。
「あ・・・や、先、ぱ・・・・・・」
「ほら。ダメだよちゃんと集中しなきゃ。水入っちゃうでしょ?」
「そん・・・・・・な・・・・・・」
後ろから抱き込まれ、抵抗できないまま先輩の手が、舌が、体中を這い回る。
首から肩を舐められ、
胸のしこりを弾かれ、
そしてエプロン越しに脚の間を掴まれ。
「あっ・・・・・・!!」
びしゃりっ。
重なる刺激に耐え切れず、
大きく沈ませたボールに、跳ねたお湯が流れ込んだ。
「入っちゃったね、水」
「失敗・・・・・・っスか・・・・・・?」
泣きたく、なる。
これでもう渡せない。
もう、「好き」って伝えられない。
そして・・・・・・これでもうこの『チョコケーキ作り』も終わる。
虚ろな目で、肩を落としてどこかを見つめる。と―――
「―――ううん。まだ大丈夫」
先輩は優しく首を振って、そう言ってきた。
「え・・・・・・?」
信じられない思いで見上げる俺に、先輩は笑顔で答えてきた。
「チョコだけを使う場合は絶対水を入れちゃダメって言われるけど、何かと混ぜる場合はむしろ水を少し加えた方がチョコが分離せずに済むんだよ。
これからそのチョコは生地と生クリームに混ぜるから。
それにまだチョコは余分にあるしね」
終わりじゃ、ない・・・?
まだ、渡せるの・・・・・・?
先輩の、その言葉に。
「よかった・・・・・・」
俺はただそう呟いた。
嬉しくて、顔の力が緩む。
本当に―――嬉しくて。
「・・・・・・・・・・・・」
笑いかけて、ふと気付く。
―――そういえばここにはその不二先輩がいた。
何も言わない先輩に、顔が赤くなる。
もしかして、気付かれた?
「―――先輩?」
不安になって見上げると、先輩は笑顔で返してきた。
「ううん。何でもないよ?
じゃ、続けようか」
「はい!」
珍しくガキみたいに返事する。
全ての気持ちを内包した、
そんな笑顔を向けて。
喜びを。
愛しさを。
この気持ちを、アンタに早く伝えたい・・・。
Next
Χ Χ Χ Χ Χ Χ Χ Χ Χ Χ Χ Χ Χ
2003.2.11〜12
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