3.掃除その2 ―――対リョーマ



 さて、部屋に戻って着替え終わった(この後練習があるため結局半ソデ短パンはそのままだが)不二。が、掃除はまだ終わっていない。
 (う〜ん。どうしよう。僕だけサボってるってのもなあ・・・・・・)
 先ほど感じて(笑)抜けた力はもう戻っている。休む理由がない。
 (誰か、人手足りない人っていないかなあ?)
 そう思いつつ、ぶらぶらと辺りを歩く。と―――
 「・・・・・・いたいた」
 昨日夕食を食べた大宴会場を見て、呟いた。中での微笑ましい光景に、くすり、と笑みが洩れる。
 「さ〜って・・・・・・」
 音を立てないよう中へと入り、不二は『頑張っている』少年の背後へとそっと近付いていった・・・・・・。





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 「にゃろ・・・」
 「この・・・・・・!」
 「くっそ〜・・・・・・!!」
 その大宴会場では、ハタキ片手にリョーマが熱血感溢れていた。ヘタをするとテニスの試合以上のそれ。彼が一体何と格闘しているのかというと・・・・・・
 「あとちょっとっ・・・・・・!!」
 ―――ここまでくればわかるだろう。彼は天井近辺と格闘していた。背の低い彼に、旧式というか某高枝切りバサミのような伸縮自在の機能などあるワケのないハタキでは、天井の高いこの大宴会場では上のほうは掃除出来ない。飛んだり跳ねたりして何とかここまではやってきたのだが、一番高いところにあるもの―――電気には手が届かなかった。しかもヘタにそれをやると衝撃で電気が割れる。
 と―――
 「うお―――」
 着地をミスり、後ろへとよろける。とっさに足を後ろへ出そうとしたが、それよりも早く、何かにぶつかった。
 ぽすん
 「―――大丈夫? 越前君」
 「あ・・・、不二、先輩」
 後ろから抱き込まれ、顔を赤くするリョーマ。一方―――
 (ああ、確かに抱きごこちいいな・・・・・・)
 抱き込みつつ、不二はそんな事を考えていた。どうりで英二がしょっちゅうリョーマに抱きついているわけだ。
 ―――英二の本音は不二以外にも抱きつく事で『不二に抱きついてもおかしくない状況』を作り出し、なおかつスキあらば不二に近付こうとするリョーマを邪魔しているからなのだが・・・・・・。
 そんな事はもちろんわかるわけもなく、不二はその気持ち良さにリョーマを抱き締める手に力を込めた。
 不二にぎゅ〜っと抱き締められる。そんなこの上なく嬉しい状況に、リョーマもまたハタキを放り出して抱きつく。のだが、
 「―――ああ、ごめん。掃除の途中だったね。邪魔しちゃった」
 (ちえっ。残念)
 ぱっと離れる不二に、舌打ちなどしつつ心底残念そうにというかモロに心底残念にリョーマがため息をついた。
 「で? なんなんスか不二先輩?」
 「ああ、掃除手伝おうかと思って」
 「先輩風呂場担当でしょ?」
 「そうだったんだけど、後は英二だけでいいって手塚に追い出されて」
 「ふ〜ん・・・・・・」
 何があったかもの凄く予想しやすい展開に、リョーマは適当に頷いておいた。
 そして―――心の中で舌を出す。
 (ゴシュウショウサマ、英二先輩)
 この様子では未遂だろう。実際何かあったならば手塚がブチ切れている。
 「だから、ハタキ僕がやろうか?」
 「先輩も背、低いじゃん」
 「君よりは高いよ」
 「嫌味?」
 「いいや。だから何とか電気に届くんじゃないかな? っていうだけ」
 「それを『嫌味』って言うんでしょ」
 「そう?
  まあ何にしてもこのままじゃ掃除終わらないでしょ? それだったら分担してやったほうがよくない?」
 「・・・・・・そっスね」
 いろいろ引っかかるところもあるが、ごねれば不二は別のところへ行くかもしれない。せっかくの2人っきりのチャンス。毎度恒例邪魔してくる仏頂面もうるさい猫も(ヒデ・・・)ここにはいない!!
 「―――じゃ、よろしくおねがいしまーす」





 そんなワケで、ハタキは不二担当、掃除機はリョーマが担当となった。ハタキが終わっていないうちに畳を掃除するのは無意味じゃないか、と言われそうだが、まあ所詮掃除など適当にでもやっておけば良し(
byもちろんリョーマ)。
 一面掃除機をかけ終わり、コードを引っこ抜いて、リョーマは掃除機のそばにしゃがみ込んだ。どきどきと、胸を高鳴らせコード巻上げのボタンに手を伸ばす。実はリョーマはこの瞬間が好きだった(もちろん家で実際にやるのは母親か菜々子かだが。リョーマが掃除など自らやるわけがない)。このようにコードを巻き上げると・・・・・・それにつられてカルピンが絡みだすのだ。時々逆に絡まれたり。見てて凄く面白い。
 が、今回絡まれたのはカルピンではなかった。
 「え〜っと、あとはあっち、と・・・・・・」
 「げ・・・! 不二先輩・・・!!」
 運悪くというかタイミング良くというか今までやっていた個所が終わった不二が、上を向いたままふらふらとコードを跨ごうとし―――
 「うわっ―――!!」
 「不二先輩!!」
 コントの如く跳ね上がるコードに足を取られた。前のめりになる不二。とっさに駆け寄るリョーマ。
 ぐしゃっ!
 小柄同士とはいえもちろんリョーマが不二を支えられるわけがない。畳の上で2人がもつれ合って転がった。
 「―――ってて・・・」
 「ごめん! 越前君! 大丈夫!?」
 「へーき・・・・・・」
 寝転ぶリョーマ。覆い被さり
10cm上で真剣に謝ってくる不二。流れるサラサラの髪が顔に触れそうなほどの近距離にて碧い瞳に見つめられ、リョーマが目を見開いて固まった。
 動かないリョーマを見て、
 「あ、ごめん。すぐどくから」
 「あ・・・・・・」
 (そのままでぜんっぜんおっけーっスよ、先輩・・・・・・)
 が、まだまだハプニングは続く・・・・・・。
 「あれ・・・?」
 びたん!
 「ぐ・・・!!」
 立ち上がろうとした不二が、再びコケた。
 「ご、ごめん! 悪気はなかったんだけど・・・・・・」
 再び潰したリョーマに謝り、足元を見やる。なんか足が動きにくい・・・・・・
 「・・・・・・絡まってる」
 「う・・・?」
 不二に合わせ、リョーマもまた足元を見やる。先程コケただけあって、不二の足にはコードが絡み付いていた。
 (縛りプレイ・・・・・・?)
 ついそんな事を思う。両脚を揃えたまま斜め座り―――いわゆるお姉さん座り―――の不二。ハーフパンツのため剥き出しの白い脚に黒いコードが巻かれるその姿は、リョーマでなくともそんな事を思わせるに充分であった。
 「ほいっ」
 試しに引き寄せたコードをさらに不二の体に巻きつけてみる。
 「何? 越前君」
 「ただの『遊び』っスよ」
 「縛るのが?」
 「そう」
 頷くリョーマに、ふ〜んと不二も頷き返した。言われてみればそうかもしれない(注:そんなわけはない)。
 「あ、先輩。そのコードの先端、ハーフパンツの中に入れて」
 「こう?」
 「そうそう。
  ―――っと、まあこんなもんかな」
 ぱっと不二の体から手を離し、改めて見下ろす。既に青学レギュラー用のポロシャツとハーフパンツに着替えていた不二。白が基調のそれにはコードがよく映える。上も下もクドくない程度に、しかし縛られていると意識させる程度にコードに絡まれ、しかもその先端はポロシャツをまくりハーフパンツの中へ―――
 妄想を駆り立てるには充分なその姿に、
 「じゃあさっそく」
 立て膝となっていたリョーマが、不二の肩を軽く押す。それだけで不二があっさり後ろに倒れた。手も脚も動かせない芋虫状態だからというのもあるが、何より不二が全く抵抗しない。
 (へへ。らっき♪)
 押し倒しつつ、頭を打たないように腕を回してゆっくり横たえさせる。
 きょとんと見上げる不二の頬に手をやり―――
 スパン!!
 とりあえずキスは終え、コードを巻きつかせたまま服を脱がすというさすが天才2人といわんばかりの妙芸というか奇術もどきを実践しているところで、廊下側にあった襖が勢いよく開いた。
 溝に一切歪み等が発生していないと証明するその潔い音の後には、その音そのままの人が登場した。





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 「―――何をしている? 越前、不二」
 そんな手塚の質問に―――
 「何って―――」
 「遊び、っスけど?」
 きょとんとする不二。しれっと答えるリョーマ。
 「遊び、だと・・・・・・!?」
 2人を―――というか不二を観察する。コードで縛られた半裸の不二。寝転ぶ彼に覆い被さるリョーマはどう見ても―――
 手塚はあえてその答えを、現在コードに縛られ襲われている無自覚被害者に問いた。
 「訊くが不二、ではこれは何の遊びだ?」
 「え〜っと、縛られてて、この体勢だと―――縛りプレイごっこ?」
 (そこまで思いついてなんで自分が今されてると気付かない!?)
 この
15分で『ふざけ』『遊び』を名目に知り合いに2度も襲われているというのに・・・・・・!!
 「そーそー。縛りプレイ『ごっこ』」
 「やだなあ。手塚ってば何だと思ってたのさ?」
 (『真実を』だ・・・・・・!!)
 それでありながらまるで自分だけが異常者であるかのようにリョーマにも不二にも笑われ、手塚が肩を震わせる。
 もうこうなったら価値観を壊そうがなんだろうが不二の目の前でリョーマに宿周りを命令しよう・・・!!と口を開く。が―――
 「じゃあそろそろ掃除終わりましたんで」
 「そうだね。さっさと片付けないとね」
 と、手塚の言葉を待たず不二とリョーマが共同でコードを解いていった。
 「う〜ん。けど残念だなあ。せっかくここから面白くなりそうだったのに」
 「ま、これ以上ここでやってると手塚部長に『勘違い』されるし」
 「それはそれで水差されて嫌だね」
 「ああ・・・。なんだったら後で俺の部屋来ます? 
101号室。いつでもおっけーっスから」
 「いいね。ああ、僕のところでもいいよ。
305号室」
 「んじゃ後で伺います」
 「待ってるよ」
 お互いの頬にキスをする。別れの挨拶(不二視点)。
 ―――なぜかそれを見てさらに手塚が肩を震わせているようだが(やはり以下略)。
 「越前・・・・・・!!」
 「さ〜って朝メシ朝メシ」
 手塚の怒りが爆発する前にさっさと去るリョーマ。このあたりも彼の生意気さを引き立てている。
 「不二・・・・・・」
 「何? 手塚」
 「・・・・・・・・・・・・いや、何でもない」
 「?」
 結局、今回も『価値観の変容』には失敗した手塚であった・・・・・・。



いんたーみっしょん?.練習中 ―――対全員






 ―――再び<
S.H!>オリジナルアニメよりのネタとして部屋番号を利用。しっかし1・2年はともかく、3年ってどうやって部屋番号決めたんだろう・・・? クラス順かしら? あ、ちなみにアニメ基準なので不二先輩の目が碧[あお]いです。

2003.8.10