いんたーみっしょん?.練習中 ―――対全員
もちろんテニス部の夏合宿なのでメインはテニスである。と、いうわけで現在は練習中。
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(・・・・・・・・・・・・?)
ラリー練習の最中、返し損ねたボールを拾おうとして後ろを向いた不二は眉を潜めた。後ろには球拾いの1年が待機している。が、
(・・・・・・・・・・・・・・・)
もう一度、前を向き直る。前には今回ラリーの相手の大石が。
(・・・・・・・・・・・・・・・・・・多すぎない?)
なぜか自分の後ろにはほとんどの1年が集まっている。そして大石の後ろには1人しかいない。さらになぜかコート待ちの2・3年も自分の後ろにいる。
もちろん不二の後ろにいる者の狙いはまくれる不二のユニフォームを見る事にあるのだが・・・・・・
(もしかして僕って・・・・・・ヘタに見られてる?)
・・・そんな事わかるわけのない不二は、『自分の後ろにボール拾いが大勢いる』という事実よりこのような結論に至っていた。
(僕、そんなにボール落とさないけどなあ・・・・・・)
『天才』のプライドを傷付けられ、目を落として唇を僅かに尖らせる。そんな表情にボール拾い改めギャラリーは大喜びだが、
(―――しかもヤジまで飛ばされてるし)
彼にはそう聞こえるらしい。
(けど、『僕の方はいいから大石の方にも回ってくれない?』なんて自意識過剰だよねえ。大石にも悪いし)
そんな(不二にとってのみ)腑に落ちない練習は、
「不二! 大石! 河村・桃城と交代だ!」
「さ〜ってじゃあ俺達も練習の続きを―――」
「そうっスね―――」
ざわざわばたばた
(・・・・・・・・・・・・)
手塚が交代の合図を出すまで続いた。
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「あっつ〜・・・・・・」
交代し、一息つく不二。夏真っ盛り。さすがにこれだけ動けば汗もかく。
特に何も意識せず、ユニフォームの裾で顔の汗を拭おうとし―――
「―――不二。ちゃんとタオルで拭け」
先程合図を出した手塚が今度はそんな事を言って来た。
「え? 何で?」
「お前がそうすると目の毒―――ではなく、レギュラーがそういうしまりのない態度では他の部員たちへの示しがつかない」
「でも―――」
手塚の理屈に不二が首を傾げ―――横を指差した。
「あそこで同じことやってるレギュラーがいるけど?」
「あ〜あっついにゃ〜」
「ホント、汗かきますね」
「菊丸! 越前! お前達5秒前まで袖で拭いていただろう!?」
完全棒読みで裾を使って汗を拭う2人に怒鳴る手塚。
「だ〜っていっぱい汗かいちったもん」
「とってもとっても袖なんかじゃ足りないっスよ」
「お前達はまだラリー練習を行なっていないだろ!? なぜそれでそんなに汗をかく!?」
「やだなあ手塚。こんなに暑いんだよ? 外にいるだけで汗なんていくらでもかくじゃない」
「・・・・・・・・・・・・」
不二のこの上なく正しい答えに、手塚が黙り込んだ。そこへさらにヤジが(今度は正真正銘の)飛ぶ。
「そーだそーだ!!」
「汗かいて当り前じゃないっスか!!」
悪質極まりないコンビネーション攻撃。中心にいるのが不二である以上手塚はやりかえしようがない。
不二からは死角で英二・リョーマを睨む。勝者2人はにやにや笑うだけだったが。
ため息をつき―――論点をすり返る。
「・・・・・・わかった。しかしとりあえず不二、お前はタオルを持っているだろう? それで拭け」
「? いいけど」
『え〜〜〜〜〜!!!???』
途端に飛ぶブーイング。2人だけではなく、手塚と当事者除く全員から飛んできた。
それを一瞥(別名『一睨み』)して、
「何か問題があるのか?」
『いーえ別に・・・・・・・・・・・・』
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「よし! 20分休憩!!」
やはり手塚の号令と共にばらばらと散っていく部員たち。その場にへたり込む者。まだまだ興奮状態で騒ぐ者。飄々と自分のお気に入りのジュースを買いに自販機へと向かう者。そして―――何人かで固まって話す者。
「俺さ〜。今日朝一番に不二先輩に会っちまったよ」
『おお!?』
「たまたま早く起きちまって、んで散歩なんてしてたらさ・・・」
「散歩!? なんでお前ンな風流な事を!?」
「バカ!! それが狙いだったに決まってんだろ!?」
「いっや〜。マジ『早起きは三文の得』ってヤツ? カメラ片手にやっぱ散歩してた不二先輩に会ったんだよ〜〜〜!!!」
「く〜〜〜!!!」
「それでさあ、『おはよう。随分早いね』だってよ〜〜〜〜〜〜!!!!!!」
「声までかけてもらったのかよ!?」
「なんって羨ましいヤツ・・・!!!」
「も〜そん時の先輩っていったらそりゃ―――」
「しっ! 先輩だ!!」
「―――やあ、随分盛り上がってるみたいだね。何の話してるの?」
『え!?』
「い、いいえいいえ!! 先輩には全っ然関係のない事ですはい!!」
「・・・・・・そうなの?」
「それはもう絶対確実100%間違いなく!!」
「・・・・・・。そうなんだ」
『そうです!!!』
「・・・・・・・・・・・・。
じゃあ、邪魔してごめんね」
「―――ねえ手塚。ちょっといい?」
「・・・・・・何だ?」
いきなり後ろから話し掛けられ、手塚の対応が一瞬遅れた。予めわかっていたなら心の準備も出来るというものだが、いきなりだとやはり心臓が跳ね上がる。
「・・・・・・。やっぱり君もそうなんだね」
「何がだ?」
いきなりの分からない台詞に首を傾げる。が、その疑問も彼の次の台詞を前にあっさり吹っ飛んでいった。
「相談、したい事があるんだけど・・・・・・」
「相談、だと・・・!?」
不二から相談。相談というのはその回答を持っていそうな者か、少なくともある程度以上親しい者でなければされない事だ。つまり自分は不二にとってそれだけの存在となりえたわけで・・・・・・!!
―――と一人喜ぶ手塚。だったが、不二には仏頂面で目を見開く手塚はやはり違う意味に捉えられ・・・。
「・・・・・・迷惑、だよね・・・・・・、ごめん」
「い、いや! そんな事はない!! 決してそうは思わない!! ただ―――」
「ただ?」
「俺に、なのか? そういう事はむしろ大石向きじゃないのか?」
「う〜ん。大石にしようかな、って思ったんだけどさ・・・・・・、
大石は優しいから。だからきっと僕が嫌な思いをするような事は言ってくれないと思うんだよね。
でも手塚ならきっとどんな事でもはっきり言ってくれるかな、って思って・・・・・・」
「不二・・・・・・」
それはつまり『手塚は他者への配慮が足りない』と言われているのと同じなのだが、とりあえず大石より自分を選んでくれたという事に感激する手塚にはどうでもいい事だったらしい。
「わかった。聞かせてもらおう」
「ありがとう」
ふんわりと微笑む不二に、手塚の頬が緩まる。
顔を赤らめ極めて珍しい笑みを浮かべかける手塚だった。が―――
「―――大丈夫? 手塚。熱中症じゃない?」
「・・・・・・。いや。何でもない。大丈夫だ」
「そうなの?」
「ああ。
―――で?」
これ以上会話をしていると何を言われるか分からない。最悪、精神病扱いされるかもしれない。
「ああ。あのね・・・・・・
――――――僕って、みんなに嫌われてるのかなあ?」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
みーんみーんジーつくつく――――――――――――
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・何?」
「・・・なんで返事が1分以上遅れるのさ?」
(それはもちろん、お前の言葉の意味を考えていたからなんだが・・・・・・)
一体何をどう解釈すればそんな悩みが持てるのか。逆だから自分は毎日ほとほと困っているというのに。
今のレギュラーになってますます過激になってきた不二争奪戦。あまりの過激さにレギュラーら除くただの部員は怖くて手が出せないという面もあるのだが。
冗談抜きで思う。ああ、不二が自分以外の全員に嫌われたらなあ、と・・・。
「だってさあ、英二とか越前君とかレギュラー達はみんなよく接してくれるんだけどさ」
(それはそうだろう・・・・・・)
「他の部員たちって僕が何かやるとすぐブーイング飛ばしてくるし」
(全て歓声、なんだが・・・・・・)
「それに僕が近付くと話止めたりするんだよ」
(お前の話題を本人の目の前ではしにくいだろう・・・)
「僕が1年とか2年とかの時は先輩たちも凄くよく話し掛けてくれたから―――」
(それはお前狙いだったから・・・・・・)
「だから僕も後輩たちに親しまれる先輩になりたいって思って努力してるのに」
(お前は努力なんてしなくてもこの上なく『親しまれて』るぞ・・・・・・)
「なんでみんな嫌うんだろう・・・? 僕何かみんなが不愉快になる事やってるのかなあ・・・?」
(愉快すぎて狂喜乱舞することならいつもやっているだろう・・・・・・? 頼むからいい加減気付いてくれ・・・・・・!!)
心の中での突っ込みが激しくなっていく。よほど口に出して言おうかとも思ったが―――
「不二・・・・・・?」
言いながら、徐々に不二が顔を俯かせていった。だんだん、言葉も力がなくなっていく。
「僕は、仲良く、なりたいだけ・・・なのに・・・・・・」
俯くその顔は髪に隠れて分からない。だが僅かに覗く口元は笑みの形を保っていた。いつものとはちがう―――弱々しい笑みの形に。
「不二・・・・・・」
肩が微かに震えている。泣きたいのを堪えているのかもしれない。
そっと、抱き締めようとして―――
「――――――!!!???」
周りから放たれた殺気に、手塚は伸ばしかけた手をびくりと震わせた。目だけで周りを伺う。自分達をじ〜っと見つめる部員ら。ラケットとボール片手に『スタンバイOK』なレギュラーら。コップ片手に、日陰などほとんどないはずなのになぜか逆光で佇む乾。そして・・・・・・
にっこり笑顔で首筋に当てた親指を引く英二。『KILL』のサイン。
「・・・・・・・・・・・・」
無表情のまま、汗をダラダラ流し、
結局手塚は伸ばした手を不二の肩に置いた。
顔を上げる不二に、一言。
「気にするな」
「・・・・・・それだけ?」
「ああ。それだけだ。お前はお前の道を行け」
「何その人生相談でありふれてる言葉?」
「気のせいだ」
「手塚・・・。キミ真面目に聞く気ないでしょ?」
「俺はいつでも真面目だ。
―――さあ! 練習を再開するぞ!」
『おーーー!!』
こうして―――
判断を誤る事のなかった手塚は本日生き残る事に成功したのだった・・・・・・。
―――なんだか1の目覚めと矛盾した事が出てきました。まあきっと不二先輩は1度散歩というか撮影してからまた寝て、それを乾に起こされたのさ(無理のありすぎる設定)! そしてそれを話す脇役部員。ノリは完全に腐女子でした。
2003.8.10