5.料理 ―――対大石&海堂?
というわけで早風呂の後は夕食。ショックを受けていた不二もなんとか立ち直り料理を手伝い、そして今だショックから立ち直れない手塚も、まあ一緒にやるのが常識人たる大石と海堂ならば大丈夫だろうと特に口出しはしなかった。―――なお先ほどやはり大丈夫だろうと思っていた常識人河村までもが暴挙に出かけていたような気もするが・・・・・・。
「じゃあ、今日の夕食は定番だけどカレーだから・・・・・・」
「あ、ちょっと待って」
材料を用意しようとしていた大石を遮り、不二がにっこり笑って2人にそれを差し出す。
「何・・・スか? コレ・・・・・・」
「え? 見たまんまだけど?」
「エプロン・・・に、見えるんだけど・・・・・・」
「うん。汚れたら大変でしょ? カレーの染みって落ちにくいし、染みつけて部活ってあんまり見た目よくないじゃない」
『なるほど・・・・・・』
不二の理屈に2人で頷く。自分達が今着ているのは機動性を考慮し(というほど大したものではないが)ポロシャツにハーフパンツのままである。確かに黄色い染みつけて部活はかなり恥ずかしい。
「じゃあ、ありがたく借りるよ。サンキュー不二」
「どうも、ありがとうございます」
「いえいえ」
● ● ● ● ●
着替え終わった(羽織っただけだが)2人。片やベージュ、片や茶色で無地、大きなポケットのついた、その他飾り気には乏しいつまるところ普通のエプロン。
「なんとなく、誰のエプロンだかよくわかるな・・・・・・」
大石が呟くとおり、それは不二と裕太のエプロンだった。
そして――――――
「ついでに言うとこっちもさ・・・・・・」
「ふ、不二・・・先輩・・・・・・////!?」
さらに大石が半端な笑みで諦めのため息をつき、海堂が真っ赤になって驚愕の声を上げる彼のエプロンもまた。
不二の着ているものは、白地にフリル、丈はミニスカート並で裾も丸く可愛らしい、つまらずとも新妻さん風エプロンだった。
「それ・・・・・・由美子さんのか・・・?」
「うん。姉さんが以前使ってたの。エプロンない? って訊いたらコレ持っていきなさい、って渡されたから」
「あくまでそれを人に渡さず自分で着る辺り一応常識はあるんだな・・・・・・」
「何? 大石」
「いや別に」
「そう? じゃあ始めようか」
一方的に宣言し、2人を置いて不二が準備に入る。大石もまた今だ硬直したままの海堂の肩に手を置き、
「頑張れ海堂。とりあえず間違って手でも出したら宿周り100周が待ってるからな」
「出しません!!」
が、そんな大石の杞憂は海堂以前に彼の相棒が見事なまでにぶち壊した。
「あー! 不二−!!」
「不二先輩! 何スかその格好!?」
ふら〜っとカレーの匂いに引き寄せられた英二とリョーマ。台所でパタパタ動く新妻(誤)に、抱きつくとかそういった事も忘れ指差し目ん玉見開き顔の造形を完全に崩して驚いていた。
「英二、越前君。別にエプロンつけてるだけだけど?
―――ああ、晩御飯ならもう少し待ってね。今煮込んでるところだから」
「じゃにゃくって!!」
「いいっスよその格好!! 何かすっげーそそられる!!」
「え・・・・・・?」
2人揃って握り拳でグー!といった感じの様に、不二が肩を落として首を傾げた。はずみで左肩の肩紐がするりと抜け落ちる。
「あ、っと・・・・・・」
直そうとした不二を・・・
「ストップストップ!!」
「そのまんまでいいっスよ!!」
なぜか2人が慌てて止める。
「え、っと・・・。でも落ちたまんまって気にならない?」
『全然!!』
(そりゃ・・・、見る側は気にならないだろうな・・・・・・)
コンビネーションばっちり―――ヘタをすると自分とのペア以上じゃないかと疑いたくなるほどの息の合い振りで首を振り断言する2人に、大石が心の中でそっと突っ込みを入れた。肩紐が外れて一番気になるのは付けている本人だろうに、それに気付かない不二にある意味賞賛を送りたい。
「あ、でも気になるっていったらむしろそのカッコ?」
「格好? 別に普通じゃ・・・・・・
「ダメっスよ不二先輩。古今東西万国共通エプロンっていったらその下は何にも着ないモンっスよ」
「え・・・。それって・・・・・・」
いくら平然と言おうがさすがにそのロコツ過ぎる表現に、不二の顔が僅かながら顰められた。
のだが。
「そーそー。だってせっかく服が汚れないためのエプロンだろ? 汚れなんて前から飛んでくるとは限らないし、しかもしっかり覆えてない以上はみ出た部分に付くかもしんないじゃん。だったらエプロンつけてる意味ないっしょ」
「う〜ん・・・。確かに・・・そうかもしれないけど・・・・・・」
(違うから明らかに)
一応突っ込み第2弾。前から飛んでこない汚れというのもなんだが、そもそもそこまで服を守りたいなら全身ガードできる割烹着を着ればいいだけの話。わざわざ着けた挙句それで守られるべき服を脱ぐのは完璧本末転倒だ。
「あ・・・。でも・・・・・・」
脱ごうとして、不二の顔に戸惑いが走る。
「やっぱり恥ずかしいよ・・・・・・」
小声で呟く不二が思い出すのは先ほどの事。風呂場で後輩に背中を洗われその気持ち良さに感じてしまい、謝るものそこそこに出てくれば廊下で遭遇した3人に危うくタオルまで奪われかけ。
(しかも手塚にまで見られて・・・・・・!!)
断言する。絶対アレは馬鹿にされていた!! 朝から何かにつけて乱入してきて、自分ひとり毎度追い出して!
(絶対その後でみんなと僕の事笑ってたんだよ!! 何さ普段真面目面してるクセにこの陰険なイジメは!!)
凄く哀しくなる。手塚だけはそういう事しないと思っていたのに。
俯く不二を、英二が後ろから、リョーマが前から優しく抱き込む(しがみつくという意見は黙殺)。
「さっきはごめんにゃ、不二。もうやんないから」
「俺人との接し方ってよくわかんないからあんな事しちゃったけど、もう先輩の嫌がる事絶対やらないから」
「英二・・・。越前君・・・・・・」
ふんわり笑ってそんな事を言う2人に不二が感動し・・・・・・・・・・・・大石は明後日の方向を向いて何も聞かなかった事にした。
恐ろしいまでの手の平返し。さっきっからどころかいつもいつも不二に最も『恥ずかしい』事をさせている張本人らだというのに、この瞬間他の全員を蹴落とし自分達だけが不二の味方の座に這い上がった。
「うん・・・。じゃあ―――」
頷き、不二がエプロンはつけたままポロシャツをゆっくりと脱いだ。並のAV顔負けのストリップに、ついに限界を越えたらしい海堂が鼻血を噴いて気絶する。
ハーフパンツに手をかけ―――
どすん! どすん! どすん!
ばたん!!
「菊丸! 越前! お前達はまた何をやって―――!!!」
「いやあああああああ!!!!!!!」
ばしゃん! がん!!
ばたっ・・・・・・
どうやったかピンチを察し(ついでに立ち直ったらしい)手塚が台所へと乱入し、そして不二が悲鳴と共に投げつけたカレー鍋を頭から食らい倒れる。
「もー手塚なんか大っ嫌〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜い!!!!!!!!」
「ふ、不二・・・・・・・・・・・・!!」
決定的な一言に、鍋を頭に被ったまま手塚が灰と化した。
「あ〜あ。俺知〜らないっと」
「ゴシュウショウサマ、手塚部長」
両手を頭の後ろに組み、元凶2人が去っていく。それを咎める事すら出来ずにのの字を書いて落ち込む手塚に、
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
大石は何もかけるべき言葉を思いつけず、
「とりあえず・・・、
どうしようか、今日の晩御飯・・・・・・」
そんな事を呟くしかなかった。
―――今回は再起不能っぽかった手塚に代わり大石視点ですおおむね。そして手塚は完全に再起不能になったようです。う〜む。しかしストリップ劇場と裸エプロン。もう少しやってもよかったか・・・・・・。なお大石が普通の反応しか返していないのは1年の頃からずっと手塚といて彼の苦労をよく知っているから・・・・・・、なようです(この微妙な言い回しの意味は後々明らかに?)。
2004.5.9