彼には前々から癖があった。気まずい時、苛立った時、総じて―――間を埋めたい時、体を掻くという、そんな癖。
6’.狂気1 −癖−
「にゃ〜v 不二〜v 今日も遊びに来たよ〜vv」
「あ、お兄ちゃんたち、今日も来てくれたんだ!!」
ぽりぽり・・・・・・
「不二、今日もワンパターンやけどりんご持って来たで」
「お前ワンパターンって自覚してんならいい加減変えろよ・・・・・・」
「ありがとうv すっごく嬉しいよ。僕りんご大好きだからね」
ぽりぽり・・・・・・
「あの、前から不思議だったんですけど、不二って何か副作用のある薬飲んでるんですか? あるいは何かに対してアレルギー持ってるとか」
「え? 別にないけれど」
「どしたの? 大石」
「いや・・・。ただ―――
―――不二ってよく頬掻いてるよな、って思って」
「ああ、そういやぁ・・・・・・」
「最初は癖かなって思ったんだけど、前はなかったよな、あんな癖」
「う〜ん・・・確かに」
「それに・・・・・・・・・・・・」
「それに?」
「――――――――――――――――――――――――頬が完全に傷付くまで掻き続けるって、少しおかしくないか?」
・ ・ ・ ・ ・
「暇だなあ・・・・・・」
ぽりぽり・・・・・・
「暇なんですけど・・・・・・」
ぽりぽりぽりぽり・・・・・・・・・・・・
「暇だって、言ってんのにさあ・・・・・・・・・・・・」
ぽりぽりぽりぽりぽりぽりぽりぽり・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「――――――ねえ、何で来てくれないの?」
ぽりぽりぽりぽりぽりぽりぽりぽりぽりぽりぽりぽりぽりぽりぽりぽり・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・ ・ ・ ・ ・
がしゃん!!
「きゃあ!!」
「誰か! 早くドクター呼んできて!!」
「ちゃんと取り押さえておけ!!」
「鎮静剤早く持って来い!!」
「一体何があったんだ!?」
「どうしたのよ不二君!?」
全てが終わった時、まるで病室は嵐が過ぎ去った後のようだった。
割れた窓。切り裂かれたベッド。倒された棚。散乱する物。
そして、その中心で医師らに押さえられ鎮静剤を打たれた不二。
大人しくなった彼の、はだけられた胸元には―――
―――――――――――――――――――――無数の引っかき傷があった。
―――7'.狂気2 −感染−