1.朝練前 ―――対宍戸



 「おら跡部! 今日こそ決着つけてやるぜ!!」
 「ハッ! いくらでも来な。俺様に挑んできたこと、後悔させてやるぜ」
 原因不明といえるほどささいな事情で毎朝行われる、跡部と宍戸のケンカ。まずは普通にテニスが行われ、
 「ほらよ。いい加減認めろよ、宍戸。てめぇの方が弱ええってな」
 「うううっせえ!!」
 このように、宍戸が負けると今度は取っ組み合いに発展する。
 ―――のだが。
 跡部はテニスと共にこのようなタイプのケンカにもめっぽう強い。宍戸も鳳との特訓でますます反射速度を上げはしたが、至近距離における跡部の攻撃はそれをさらに上回る。
 今日もまた、宍戸が避けきるよりも早く伸ばされた跡部の手が顔面へと迫り―――
 「くそっ!」
 ヤケクソ気味に顔は諦め足を払う。上手くいけば一瞬の時間稼ぎにはなるか。
 と思ったのだが・・・・・・
 「あ・・・・・・」
 「へ・・・・・・?」
 足を払われた跡部が、間抜けな声を上げてまともに後ろに倒れこむ。予想外過ぎる出来事に、それ以上に間抜けな声を上げ宍戸の動きが止まる。
 止まった宍戸。とりあえず半ば以上呆然とする頭で、それでもこれはチャンスと跡部の両肩を掴み重みをかけた。これで跡部を寝かせ動きを封じれば祝!初勝利!!
 心の中でラッパを吹いて喜んだ宍戸は、テニスの試合ならば絶対にしないであろう油断を確かにこの時していた。だからこそ―――
 ―――顔に迫っていた手がいつの間にか下に落ち、襟元を掴んでいた事に気付かなかった。
 「よお宍戸。何油断してやがる? 俺様が本気で今のてめぇの攻撃、引っかかったとでも思ってんのか?」
 間抜けな声はどこへやら、いつもどおりのふてぶてしい笑みで笑う跡部に、ようやくそれが罠であった事を悟る。
 「え・・・? な・・・
  ―――巴投げかあ!!」
 「ご名答。おら行くぜ! 死にたくなけりゃしっかり受身は取れよ!!」
 襟元を掴む手を捻り、腹に足の裏を当てられ。
 「冗談じゃねえ!!」
 ここは弾力性に富む畳やマットの上ではない。テニスコートの上だ。本当にそんな技を食らえば良くて全身打撲、最悪頭を打って本当に死ぬ。
 青褪めた宍戸は、スポーツマンシップに則り今まで封印していた禁断の手段を用いる事にした。背に腹は変えられない。何としてでもここで跡部の攻撃を止めねば!
 片手を肩から外し、振り上げられていた跡部の脚の間へと入れる。主に男子限定の急所へ。
 ハーフパンツの上から思い切り握る。と、
 「あっ・・・!!」
 「へっ・・・・・・?」
 跡部が嬌声交じりの鋭い悲鳴を上げ、攻撃の手を全て止めた。まさに予想以上の反応に、宍戸が先ほど以上に間抜けな声を上げ、止まった。
 赤らめた顔を恥ずかしげに背け、襟元を掴んでいた手で口を覆い。
 それでありながら下ろした脚を逆側もろともぴんと張り腰を突き出す。ぴったりと閉じた腿は一定リズムで脈動し、宍戸の手を逃がさないとばかりに閉じ込めていた。
 まるでもっとと誘うかのような仕草。子どもっぽく拒否する上半身とのアンバランスさがより色気を引き出す。
 目を見開いた宍戸は、その誘惑に乗り差し入れたままの手を動かした。感触を確認するように、何度も開き、閉じ。
 「あっ、あっ、んあっ・・・!」
 肩を摺り寄せ懸命に口を押さえようとし、それでも衝撃に合わせ我慢出来ずに端から声を洩らし。
 びくびくと痙攣する躰。ぎゅっと閉じられた目からはじんわりと涙が浮かび・・・・・・
 おおむね誰もが心の奥底に眠らせる嗜虐心。しかも相手は自分たちを踏み台に頂点へと上り詰めたかの帝王。自分の手の中で苛め、転がし、喘がせ悶えさせられたとしたらどんなにいいものか!!
 そんな妄想を駆り立てられ、テニス部朝練恒例行事と化していたケンカを微笑ましげに見ていた者たちがばたばたと卒倒する。こらえきれずトイレへと駆け込む者も多数。
 宍戸もまた普段とはあまりに違う様に興奮を覚え―――
 「―――ところで宍戸、さっきの俺様の忠告、まさかもう忘れちまったってのか?」
 「え・・・?
  ―――うおっ!!」
 形勢と体勢一気に逆転。半回転し、今度は宍戸が組み敷かれる形となった。
 宍戸の体を跨ぎ、跡部が顔が触れそうな至近距離で囁きかける。
 「『油断はすんな』。
  さっき俺様はそう言ってやったと思ったがなあ。本気でヨガってるとでも思ったか?」
 「な・・・!?」
 驚く宍戸の手―――先ほどまで跡部の中心部に触れていた手を取り、もう一度同じ場所へと導いた。しっかり揉ませ、
 「ん・・・、あ、あっ・・・・・・。
  ―――な〜んてな。
  甘いぜ。この程度で俺様をどうにかできると思ったか?」
 一瞬で顔から雰囲気から全て変え、つっ、と吊り上げた唇に細長い指を沿わせる。完全に遊女の所作。
 「く・・・そ・・・・・・!!」
 怒りに燃え、しかしその拳を跡部に振り上げる事も出来ずテニスコートに打ち付ける宍戸。組み敷いたまま退くでもなく、跡部は敗者を見下ろしクツクツと笑うだけだった。
 見下ろし、
 「・・・・・・アーン?」
 下にあるものに、唇から離した手を這わせる。
 「うあっ・・・!」
 「どうやら、むしろてめぇの自爆だったみてぇだなあ・・・・・・」
 下にてハーフパンツを持ち上げるそれ。
 先ほどの宍戸のような激しさではなく、むしろ優雅にゆっくりと、触れるか触れないかの境界線上でなぞり、包み込んでやる。と、そういったことに慣れていないらしい宍戸はあっさりと上り詰めていった。
 「や、めろ・・・って・・・! ああもークソッ!!」
 「そう嫌がんなよ。このまんまじゃ部活出来ねえだろ? 俺様直々にイかせてやるよ」
 「いらねーよンなサービス//!!」
 耳まで真っ赤になり涙目で訴える宍戸。今度嗜虐心を刺激されたのは跡部だった。
 目を細め、わざとくちゃりと音を立て口を開く。
 「あんまり俺様に逆らうと、
  ―――本気で泣かせるぜ?」
 「な、何するつもりだよオイ跡部!!」
 薄い笑みのまま体を下げていく跡部。一応これで拘束からは解けたのだが、ビビる宍戸に逃げる事は不可能であった。
 宍戸の両膝を掴んで倒し、脚を思い切り広げさせその間に間に顔を沈めていく・・・・・・。
 「うわあああああああ!!!!!!」
 何をやるか悟った宍戸が完全に錯乱して悲鳴を上げた。同じく悟った見物者らもあまりの行為に止めにも入れず、
 跡部の唇がハーフパンツ越しに勃つそれへと触れる―――寸前に。
 「ちょい待ちいて跡部。からかいはその位にせえ。ホンマ宍戸泣いとるやろが」
 背後から(宍戸にとっては前から。しかし跡部にばっかり視線が行っていたため全く気付かなかった)近付いてきた忍足が、寸でのところで跡部の襟首を掴んで引き上げた。
 引き上げられながら、跡部は肩越しにそちらを振り返った。今までの事は何だったんだといわんばかりにいつも通りの様子で。
 「ちっ。これからが面白いんじゃねえか。俺様に逆らった罰は身を持って与えてやらねえとなあ」
 「それで貴重な戦力削るんは止めとき。今のでイかされとったら宍戸明日から部活来れへんようになるやん」
 「ああ? この程度で引くんじゃねえよ。張り合いねえなあ」
 「そら無理な注文やって・・・・・・。
  まあとりあえず宍戸、お前もよう頑張ったわ。後は俺が相手しとくさかい、お前はいっぺん頭冷やして来い」
 「あ、ああ・・・・・・」
 忍足の言葉に、呆然としていた宍戸が立ち上がった。急いで立ち去ろうとする、その背中に同じく立ち上がった跡部から声がかけられた。
 「オイ宍戸!」
 「―――あ?」
 そのまま無視すればよかったのだろう。が、それでも返事してしまうのが宍戸だった。
 振り返る宍戸へと、
 跡部は妖艶な笑みを向けた。
 一気に距離を詰め、耳元に囁く。
 「(今度は2人っきりでやろうぜ、『ケンカ』)」
 「〜〜〜〜〜〜〜////////!!!!!!!!」
 「ってお前も止めい言うとるんに懲りひんなあ・・・・・・」
 ため息をつく忍足と、本当に楽しそうに腹を抱えて笑う跡部と。
 「お前らなんか嫌いだちくしょ〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!」
 宍戸が人格を壊して走り去っていったのは、それからまもなくの事だったという。



2.朝練中 ―――対忍足






 ―――寒い! 素直に反応する跡部がここまで寒いとは思わなかった!! おっかし〜な〜。書き始めた当初はめちゃくちゃに乗り気だったのに・・・・・・。そして『跡部様総受け』。初っ端っから失敗してるみたいです。宍戸×跡部ではあったんだけどなあ、コンセプトは・・・・・・。
 そういえば巴投げ。もちろんあんな投げ方はしません。イイワケとして2人とも我流のため正式な技名がなかなかなく、とりあえずそれっぽいものの呼び方をしています。

2004.5.9