2.朝練中 ―――対忍足
レギュラー専用部室に跡部を連れ込み、忍足はがちゃりとカギを閉めた。
「で? どーいうつもりなん? 跡部」
「あん? 何がだ?」
「何が、やあらへんやろ? さっきの宍戸にや。あないにからかったら可哀想やん」
思い出す。先ほど本気で泣いていた宍戸。これで肉体的恋愛不振になったらこの男はどうするつもりなのだろう?
忍足がため息をつく目の前で、張本人跡部は軽く笑ってみせた。
「だったら俺様が面倒見てやるよ。ああいうバカ飼い慣らすってのも面白そうじゃねえか」
その場に宍戸がいたら大問題確実の台詞。だがそれを聞き、忍足はふ〜んと軽く頷くだけだった。ため息すら消えている。
「『飼い慣らす』なあ。そら確かにオモロそうやな」
「何だよ? てめぇも俺様に飼い慣らされてえってか?」
にやりと笑う跡部に、忍足もまたにっこりと笑い返す。
「ええなあ。お願いしよか、『ご主人様』」
「・・・・・・・・・・・・」
「どないした?」
「―――なんでもねえよ」
短く切り、跡部が踵を返して部室から出ようとする。目の前を横切る彼。その腕を、
パシリ―――!
「・・・・・・なんだよ」
腕を掴む忍足に合わせ跡部が振り返る。問いには答えず、忍足は腕を持ち上げ手の甲に唇を付けた。
「跡部・・・お前・・・・・・、
他の部員には絡むんに俺からは逃げよるんやな」
跡部の目が見開かれた。
しかしそれも一瞬の事。すぐ平静さを取り戻し、
「ハッ。何言ってやがる。俺様がてめぇから逃げてるだと?」
「逃げとるやろ現に今」
「逃げてなんていねーよ。朝練戻るだけだ」
「それが逃げや。言い訳まで用意しとるんならもう言い逃れ出来へんで。
お前怖いんか? 俺にハマるんが。遊びの範疇超えるんが」
「馬鹿が。なんで俺様がてめぇなんぞ怖がんなきゃいけねーんだ。大体てめぇが俺様をハメるだと? 出来るワケねえだろーが甘く見んじゃねえ」
「台詞多いなあ。それがビビっとる証拠とちゃう?」
「ざけてろ」
「今度は極端に短いなあ。
・・・・・・ってちょお待ちい。まだ話終わっとらんやん」
「うっせー」
無理矢理腕を振り払い再び出ようとする跡部。忍足も今度は腕を握って止めようとはしなかった。
代わりに後ろから抱き込む。
「何しやがる!!」
「ええなあ、そないに焦りおるお前の顔。さっきの演技も何やったけど、やっぱ素の方がそそられるわ」
ポロシャツのボタンを全開にして。開いた肩口に舌を這わせ。裾から両手を差し入れて。
「ん・・・・・・」
小さく小さく響く声。これが跡部の本当のヨガり声なのだろう。
体を入れ替え、ロッカーにそっと背中を付けさせる。
声を殺すために噛まれた唇にキスをし、優しく溶かしていく。徐々に開いていく口。激しく求めればまた閉じてしまうだろう。忍耐勝負だ。
跡部もまた、積極的に出だす。差し出された舌に舌を絡ませ、導かれるままに下へと手を伸ばす。
ハーフパンツの上からなぞり、ゆるゆると跡部が脚を開いてきたところで下着ごと下ろし直接握り込み―――
どごっ!!
「おぐっ・・・!!」
先ほどの宍戸の攻撃。これが正しいやり方だといわんばかりに跡部は忍足の股間を思い切り膝で蹴り上げた。
「何・・・、すんねん、跡部・・・・・・」
ずるずると蹲る忍足を冷めた目で見下ろし、一言。
「俺様リードしてんじゃねえ」
「は、はあ?」
こちらを見上げ忍足が首を傾げる。どうやらこれだけではわからないらしい。
跡部はロッカーに体を預けたまま腕を組みため息をついた。
「どうやら『飼い慣らす』の意味がてめぇにゃ理解出来なかったようだな。飼い犬は主人に忠実だから価値があんだよ」
「忠実に・・・いっとるやん・・・・・・」
「どこがだ。主人をリードしようとした時点で反逆なんだよ。覚えとけ。
―――ったく、だからてめぇに絡みたくなかったんだよ。俺は忠実じゃねえペットは嫌いだ」
「そないな・・・・・・理由やったん、か・・・・・・」
それを最後に、忍足は何も言わなくなった。
完全にのびた馬鹿を部室の外へと蹴り出し、時計を見やる。今すぐ行けばまだ朝練には間に合う。今すぐ行ければ。
「クソッ・・・!」
忍足によって中途半端に昂ぶらされた躰を見下ろし、跡部はロッカーから取り出したバスタオルを手にシャワールームへと向かっていった。
―――え〜っと、この話は忍跡であり確かにシリーズ全体通して忍足→跡部っぽくはありますが決して忍足←跡部にはなりませんのでご了承ください。このシリーズ(【手塚の受難】と通して)のある種キーワードは『絶対浮気しない関係』です。さ〜ってではそんな跡部の相手は――――――【手塚の〜】とセットな時点で明らかですね。どこぞのアイドルです。
2004.5.9