4.昼休み ―――対ジロー寝こけver



 昼休み、今度こそ資料整理をしようとしていた跡部は、
 「・・・・・・・・・・・・ああ?」
 コートを―――そのど真ん中で寝こける毎度の人を見て思いっきり首を傾げていた。





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 昼休みにも練習しようとコートへ来る熱心な―――と言えなくもない輩は、そう多くなくとも確かに存在する。なお『熱心な』と断言しないのは、部活中コートは入れ替え制で使用するためその最中だけで充分な練習を行なえる者が少ないからだ。自分のように自宅にコートがあったり休日の度他の場所に打ちに行っていたりさもなければどこぞの(氷帝のにあらず)天才の如く少ない時間のフザけた練習で充分な実力が身に付けられる稀有な存在でもない限り、むしろ暇を見つけて打ちに来るのは当然の事だろう。それすらも怠り挙句レギュラーになれないとグチを言うようでは問題外だ。
 それはいいのだが。
 そんな彼らにひたすら迷惑な顔をされつつも平然と居座る男―――言わずもがなのジローに、跡部は手を顔に当てため息をついた。
 「何やってんだ・・・? ジローのヤツは・・・・・・」
 つくづく疑問だ。寝る場所などいくらでもあるというのに何ゆえコート?(←正解は日がよく当たる暖かい場所だからだそうだが)
 しかもタチが悪い事に、この場にジロー(と自分)を除いて正レギュラーがいない。注意したくても誰も出来ない、お前やれよいやお前がやれよと部員らが互いに目線で語り合っているのはわざわざ眼力など使わずとも明らかだった。
 もう一度ため息をつき―――跡部はコートへと入っていった。
 「あ、跡部さん・・・」
 「跡部部長・・・!!」
 普段とは違う意味で向けられる眼差しと掛けられる言葉。答える気にもなれず、全て無視して問題発生点へと一直線に向かう。
 「おらジロー! 起きろ!」
 屈み込みもせず、ネクタイを引っ張り強制的に上半身を起こさせる。ついていかなかった首ががくんと後ろに落ち、ようやくジローが目を覚ました。
 「あ〜・・・、あとべ〜・・・・・・。なに〜・・・?」
 目を覚ました・・・・・・といっていいのか、毎度おなじみの半眠状態で、ロレツは回らずしかし頭は前後左右にくりょくりょ回して言ってくるジローに、
 「何?じゃねえ。ここどこだと思ってやがる」
 「え〜っと・・・、コートお〜・・・・・・?」
 「わかってんじゃねえか。だったらンなトコで寝てんじゃねえ。邪魔だ」
 「え〜・・・。だってここ日当たりよくって気持ちいいんだもんよ」
 「理由になるか。他のヤツも迷惑なんだよ。
  ・・・ったくせっかくの昼休みをムダに使わせやがっててめぇは・・・・・・」
 がしがしと頭を掻く跡部を眠そうな目でじ〜〜〜っと見やり、
 今度はジローが跡部のネクタイを掴んだ。
 「おあっ・・・!」
 中途半端な前屈み姿勢での攻撃に、さすがに跡部も前によろける。その体を受け止め、ジローは自分の隣に跡部を寝かせた。
 これが忍足や宍戸だったら即座に膝蹴りぶん殴られものだろうが、こんな事をしても怒られないのはジローの特権だろう。のんびりした彼の前では誰もが毒気を削がれる。
 彼もまた例外ではなく。
 「ってジロー、何しやがる・・・」
 「えへへ〜。あとべ〜。一緒にねよ〜」
 「ああ?」
 怪訝な顔をする跡部。上に被さり、眉間に指を突きつける。
 「跡部ココしわ寄ってるよ」
 「な・・・・・・」
 指摘され、跡部がそこに手を当てた。
 「俺は手塚じゃねーんだ。寄んねーよンなトコに皺なんて」
 そこなんだポイントは・・・・・・、と聞いている誰にも突っ込ませさせる台詞だが、とりあえずジローはその辺りをスルーしたようだ。
 「だから、たまにはのんびりしよ?」
 邪気も他意もない眩しい笑顔。青天下だからという理由だけではなく手を目の前に翳し、
 「・・・・・・そうだな。たまにゃいいかもな」
 笑って、跡部はジローの頭を抱き寄せた。胸元にぽてりと横たわってくるジロー。他人にここまで侵入を許すのは珍しい。それでもなぜか、ジローにはそれが許せた。
 自覚はしていなくとも本当に疲れは溜まっていたらしい。あっさりと眠りに落ちていく。
 「へへっ。そーそー」
 ジローもまた眠った跡部の胸に耳を当て笑う。ゆったりとした、しかし力強い心臓の鼓動が耳だけでなく全身に伝わる。
 (あ〜。きっもち〜・・・・・・)
 母親のおなかの中にいる胎児はこんな感じなのかもしれない。鼓動と同じペースで頭をぽんぽんと叩かれ、ジローもまた絶対的安心感の中でうつらうつらと眠りに入っていった。
 のんびりと、ほのぼのとした時間が流れ・・・・・・





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 「益々邪魔だ・・・・・・・・・・・・」
 他の少数部員共々『熱心に』昼休みからコートに来ていた日吉。コート一面占拠しど真ん中で寝こける2人に、その他全員を代表して小さくそう呟いていた。



インターミッション.部活前ミーティング ―――対榊






 ―――はい、寝こけジローです。そして今度は<キスプリ>ネタでした。そりゃ確かに部員
200名もいたら交代制になるよな・・・・・・。
 そしてジロ跡(・・・?)。ようやくまともに攻め受け関係してきてついでに全く裏にある意味がない話になってます。わ〜い。今度は起きジローでリベンジか!?

2004.5.10