5.部活中1 ―――対向日&樺地?
放課後、部活が始まり・・・・・・
「あっち〜〜〜〜〜〜!!!」
10分も経たない内に向日がネを上げ始めた。
「うっせーなー。ちったあ我慢しろよ」
隣でウォームアップに素振りをしていた跡部がうっとおしげに注意する。
「はあ? ガマン? 出来るかよこの暑さっつーかむしろ熱さで。間違ってんだろンな日に屋外で部活なんてよ。全員熱中症で倒れるっての」
「てめぇはそうやって文句飛ばしてっから余計暑ちーんだよ」
「ああ? 何だよ跡部。心頭滅却すれば何とかってアレか? 似合わねー」
「『火もまた涼し』だ。その位覚えやがれ受験生」
「いーじゃねえか。そのまんま高等部上がるだけだしよ」
「こういう馬鹿が氷帝の名を地に落とすんだな」
「んだと・・・!?」
「おらフザけてねえで真面目にやれ」
「とかいってお前も何気にフザけてんじゃねーか」
「アーン? 俺様が?」
完全に見下した目で跡部が笑う。笑い―――いつもの台詞を吐いた。
「ハッ! ンなワケねえだろ? なあ樺地」
「・・・・・・・・・・・・」
「あん?」
返ってこない反応。確かにいつものクセというのは恐ろしいもので、時として跡部は樺地がいなくともこのように呼びかけることがある。が、今現在樺地は自分の左隣で同じく素振りをしているはずだった。
くるりと振り向き尋ねる。
「どうしたよ樺地。まさかてめぇ俺様じゃなくて岳人に賛成とか言うんじゃねえだろうなあ」
「・・・・・・いえ、そんな事は」
「あんだよはっきりしろ」
「・・・・・・・・・・・・。ウス」
ためらった後、いつもより控えめに賛同する樺地。返事が遅れたのは・・・・・・フザけ云々はともかく跡部もこの暑さで相当に参っているのを察したからだった。ただし直接口には出せないが。
そんな、部長をもってしても嫌気をささせる炎天下での部活動。ちょっと気の効いたFanならばこんな時の差し入れはもちろんアレにするだろう。
● ● ● ● ●
「うっめー!!」
「あ〜生き返る〜!!!」
休憩中、差し入れられたアレ―――アイスを食べて一気に元気になるレギュラーら。
「ありがとよ」
跡部もまた窮地を救う命綱の如きそれに、普段の5割増しの笑顔でFanに礼を言う。おかげでむしろ見物者の方に熱中症が続発したようだがそれはいいとして。
袋を破り、細長い棒付きアイスに口をつける。周りがミルクアイスで覆われた、ゴンデンスミルクと抹茶のカキ氷のそれ。一気に齧るような事はせず、周りをぺろぺろ舐め口に含んでしゃぶり、垂れた雫を舌で舐め取り軽くすする。ごく自然な反応として上や横を舐めたりしゃぶったりする時は目が開かれ、そして下をすすったりする時は細められる。本人は一気にかっ込むと口は痺れるわ頭は痛くなるわだからこそのんびり食べているだけなのだが、何を想像したかFanのみならず男子部員の中でも卒倒者が続出。彼に問題物件を差し入れたFan―――にして腐女子も予想以上のリアクションに狂喜乱舞していた。
が、『それ』に気付かない者もまたいてみたり。
「跡部〜。な〜に勿体ぶってんだよ。いらねーなら俺が貰っちまうぜ?」
口からアイスが離れた一瞬を狙って寄ってきた向日が、上の方をがぶりと齧る。
『っあ゙あ゙!!』
周りから押し寄せるダミ声の絶叫。周りから・・・・・・のはわからなかったので無視するとして、
「って何お前そこまで驚いてんだよ?」
アイスを持ったまま周りと同じくダミ声で絶叫した跡部に、向日は激しく首を傾げた。自分が食べたのは上1/4程度。まだ多く残っているしそもそもアイスの差し入れは別にこれだけではない。また貰えばいいだけだろうし、第一跡部は自分でいろいろ持っている上に人にも貰えるだけに物に対する執着心は全くと言っていいほどない。それがなぜちょっと横取りされただけでここまで過剰反応を示す?
そう思う向日は知らなかった。この手のアイスのお約束を。如何に自分がしてはならない事をしてしまったかを。
「お前なあ! このアイスがどういうのか知んねーのか!! こういうアイスの最大の楽しみは上に詰まったゴンデンスミルクなんだよ!! それを全部食いやがって!!!」
跡部が齧らなかった理由。上のものに加えてどうやらこの辺りも関係していたらしい。かつて杏に青学が同じ物件を差し入れされ、やはり食われた桃がしたのとぴったり同じ反応なのだが、こういうタイプのアイスの命はゴンデンスミルクだと改めて力説させてもらう。
口の中にひろがるてれ〜っとした甘い感触に、
「・・・・・・・・・・・・今お前がすっげー俺達と同類に見えるぜ、跡部」
「そういう問題じゃねえ! 返しやがれ!!」
「はあ!?」
本気で実はコイツは庶民なのかそれとも本当に暑さで錯乱中なのか、絶対に不可能なことを要求してくる跡部に向日が大口を開けて驚いた。しかしさすが帝王恐るべし、そして何より食い物の恨み恐るべし。ポロシャツを掴んで引き寄せ開いた口に跡部が舌を突っ込んだ。
『〜〜〜〜〜〜!!!???』
唖然とする周り一帯。向日は意識がどこかにぶっ飛び、そしてその弾みでロクに噛んでもいなかったアイスを一気に飲み下していた。
「クッソ! てめぇ飲むんじゃねえ!!」
一度口を離して怒鳴り、再び跡部が口を付けた。もちろんもうないのはわかっている。狙うは口内で溶けた残骸。
「うん・・・あ・・・・・・はあ・・・・・・」
口内をくまなく蠢く跡部の舌。舌に絡み、歯列を撫で歯の裏をなぞり。なされるがままの向日が目を見開き頬を染める。が、
「む・・・あ・・・あ・・・・・・!!」
そもそもキス自体が初めてだった向日が、苛烈な跡部の攻撃を前に息継ぎなど出来るわけはなく。
顔色を赤から青に変え跡部の背をばんばんと叩く向日。当然の如く無視されさらに激しくなり・・・・・・。
「あ・・・・・・が・・・・・・・・・・・・ぁ」
小さくなっていく呻き声をラストに、顔を紫色にまで変化させ白目を剥いて気を失った。
「ちっ。役立たずが」
腕の中でぐったりする向日をぽいと放り捨て跡部がそんな台詞を吐き捨てる。
「岳人・・・。てめぇ俺様にケンカ売りやがった事地獄で後悔しろよ・・・。とりあえず今日の練習、てめぇは3倍にするからな」
凄まじいまでの公私混同振り。はっきり言ってこんなヤツに部活を任せて大丈夫か?と、もし他校の者が見たならばそう思うだろうが、こと氷帝ではこれが日常茶飯事だった。
それを相も変わらずの無表情な目で見つめ、樺地は自分が持っていたアイスを差し出した。跡部が握っているのと同じアイスを。
「あん? なんだ樺地。俺様にくれるってか?」
「ウス」
頷く樺地。差し出す手を止め、跡部が笑った。
「いいって。お前が食えよ。せっかくのゴンデンスミルクだろ? 勿体ねえじゃねえか」
「ですが・・・・・・」
「いいから。じゃあ―――
―――代わりにこっちもらうぜ」
言うが早いか、跡部が今度は樺地の襟首を引き寄せる。決して自分で背伸びをしようとしない辺りがとっても跡部。
律儀に顔を下げる樺地の頬に片手を当て、今度こそ待望のゴンデンスミルクを間接的に味わって。
「やっぱこのアイスっつったらゴンデンスミルクだよなあ。なあ、樺地」
「ウス」
平然と―――ついでにそこはかとなく満ち足りた様子で―――そう言う跡部に頷く樺地。そこだけ見ればいつも通りの様だが・・・・・・
「・・・・・・ああ? 何お前ら全員倒れてやがる? やっぱ熱射病か?」
● ● ● ● ●
余談だが、その後このアイスの差し入れ率が急増したのは・・・・・・わざわざ記すまでもないだろう。
―――いろんな意味で跡部と宍戸が同レベルな理由でした(誤)。なお跡部の向日の呼称(というと非常にややこしい)を確認するためキスプリ&ラブプリ編集MDを聴き直し・・・・・・あ〜アットホーム氷帝にさらに惹かれまくりました。かっこい〜vv あとサエ〜(今回関係なし)vvv
2004.5.10