今日は2月
29日。4年ぶりの彼の誕生日です。





あにばあさりいいべんと








 この日、日本にいた不二はとあるイベントに参加していた。
 「・・・つーか、なんで不二先輩こんなイベント参加してんでしょうね?」
 「さあ? むしろせっかく誕生日に日本いんだし、おチビといりゃいいのにね」
 「・・・別に俺はいいっスよ一緒じゃなくって」
 「越前。今返事が普段より
0.85秒遅れたぞ」
 「・・・・・・。うるさいっスよ乾先輩」
 「わ〜。おチビってば照〜れてる〜。か〜わい〜v」
 「このヤロー。越前生意気だぞ〜vv」
 などなどと言いつつ集合するは当然の如く青学メンツ。
 今日行われるイベント―――アマチュアテニス大会には特に参加しないのだが、なぜか客寄せパンダとして今回解説を務めるどこぞの世界トップレベルのプロが『
リョーマ君は絶対連れてきてねvvv』などとホザいたおかげで一同は貴重な休日を費やし、どころかわざわざ休日を設けここへ来たのだ。
 なにせリョーマを単身で送り込むと迷子になる。ヘタなメンツをお供につけるとトラブルを引き起こす。そしてそのどれであろうといや如何なる理由であろうと、どこぞの以下略は怒りをこちらへ向けるのだ。ならば自分が届けた方が遥かに早く、心臓にも良い。
 というわけでぞろぞろやってきた一同。テニスコートを取り囲むようにある客席の中で、渡された指定席チケットどおりの席(余談だが一番見やすい位置だった)にて大会を見下ろす。
 見下ろし・・・・・・
 「ふあ・・・。タイクツ」
 「越前、そういう態度はよくないぞ。彼らは真剣にやっているんだ。こちらが真剣に応えずにどうする」
 「いや手塚先輩・・・。真剣に応えるのは対戦相手の方じゃ・・・・・・」
 「てゆーか、実は手塚も絶対! おチビとおんなじこと思ってるよね・・・・・・」
 「こら英二! そういう事は口には出すな!」
 「口に出さなかったらいいのかな・・・・・・?」
 彼らがそう思うのも無理はないだろう。いくら『観戦も立派な練習』とはいっても、実際自分がやる方が面白いというのがひとつ。そしてもう一つは―――
 「周助試合してくんないかな・・・。そしたらまだ見れるモンになんのに・・・・・・」
 目を擦りつつそんな事を言うリョーマ。普段『見て』いるのがそれこそ不二だの跡部だのの世界トップレベルのプロから、それらすらヘタすると弱く見える手塚だの真田だの幸村だのとなれば、今更アマの試合など見せられてもひたすら退屈なだけだ。
 「いや無理だろう。たとえ不二が投入されたところで相手がこのメンツでは不二は余裕で手加減する」
 「ダメじゃん全般的に」
 「ここまで来ると本気で謎だね〜。なんで不二ってばこんな仕事受けたんだろ?」
 英二の言葉に全員で頷く。本気で謎だ。
 だが、
 その謎は優勝者が決まったのち、あっさり解けた。







×     ×     ×     ×     ×







 『では、ラストに観客のみなさんも参加出来る特別企画をいたします!』
 「にゃんだ?」
 首を傾げる英二。そんな事は欠片も聞いていなかった。
 同じくざわめく観客ら。そのざわめきが―――
 ―――一気に大きくなった。
 『なんと! 今大会特別解説を務めて下さいました不二選手が観客の1人と試合をします!!』
 ざわっ―――!!!
 「ウソウソホント!?」
 「え〜どうしよ〜! アタシテニス出来ない〜〜!!」
 「大丈夫よ! 不二君だもの!! 絶対優しくしてくれるって!!」
 「てゆーかテニスどうでもいいから不二君と話せるの!?」
 いろいろうるさい客人らの中で、
 一同は同時にため息をついた。
 「なるほど。越前を連れてこいと言うわけだ」
 「でも、ちゃんと当たるのかな? 越前に」
 「つーか・・・、コレどうやって決めるんスか?」
 『さあ・・・・・・?』
 首を傾げる一同の中で、無言のまま拳を握り瞳に炎を燃やす輩が2名いた。もちろんリョーマと、そして英二。
 (今日は4年に一度の不二の誕生日!!)
 (絶対誰よりも先に―――)
  ((『おめでとう』って言う!!!!!!))
 不二の恋人として、さらに不二の親友として、2人の思う事はぴったり同じだった。なので、お互い思う事はよくわかる。さらにこの願いはどちらかしか叶わないという現実も。
 「英二先輩、俺が先にもらうっスよ・・・?」
 「ふっふ〜ん。不二の親友舐めんなよ・・・?」
 「うわなんかスッゲー火花が熱い・・・」
 「というか、その前に2人ともどうやって相手選ばれるか聞かなくていいのかな・・・?」
 『では、その相手の決め方ですが、これは不二選手自らに選んでいただきます! どうぞ!』
 「いいみたいだったな・・・・・・」
 司会の言葉に大石がひっそりと胃を押さえた。これで、どこをどう間違っても彼の相手は決定だろう。
 勧められるがままに中央へと進み出る不二。マイクを受け取り、笑顔で言ってのけた。
 『本来なら希望される方全員と試合をしたいのですが、時間の都合上お1方のみとなってしまう事、誠に申し訳ありません』
 「よく言う」
 『ではその方の決め方ですが、これから僕がラケットのトスを行います。
  それでグリップの倒れた方に向け、後ろ向きでボールを打ちますのでそれを取った方、という事でよろしいでしょうか?』
 「大体のタネは解けたね」
 「イカサマし放題ではないか」
 『はい。反対はないようですのでそれでいかさせて頂きます』
 と宣言(反対意見を黙殺)し、不二がラケットを回転させた。当然の事ながら倒れた方向はこちら。
 『それでは―――
僕とし合をしたい方は頑張ってボールを取ってください』
 「・・・・・・・・・・・・」
 一見普通の言い方のようだが――――――なぜだろう、『し合』が『試合』ではなく『死合』に聞こえるのは。
 「あの、英二・・・。ここは大人になって一歩引いた方が―――」
 「何だよ大石! せっかくの不二の誕生日なんだぞ!? おチビにばっかいい思いさせてたまるか!!」
 大石の伸ばした手があっさり払われる。同じく不二の友人として意気込む英二の気もわからなくはないが・・・特に英二は不二の自称『親友』だ。自称ではあるが―――青学内では間違いなく不二の一番の友人は彼だろう。
 だが2人が出会ったのは中学からでありなおかつ
16の誕生日の時不二はもう世界を飛び回り・・・・・・そしてほとんど全ての『友人』と疎遠になっていた。
 恐らく彼の前回の誕生日を祝う事が出来たのは、唯一同じく世界を飛び回る身として彼とずっと接していた跡部のみであろう。実質英二含め青学メンバーが不二の誕生日を祝うのは今回が初めてなのだ。もちろん毎年1日早い
28日に祝いはしていたが、やはりせっかくの記念日だ。実際自分達ももちろんパーティーは企画してるし。
 と、打つ準備が出来たらしい不二から声がかかった。なぜかボールを見たままずっと俯いていたのだ。
 『ああ、打つボールには僕からのメッセージが書かれています。もしもよろしければ、それにこたえていただけないでしょうか?』
 不二の笑みが、僅かだが軟らかいものとなる。その笑みが意味するものは何か。
 明かさないまま、不二はボールを手に後ろを向いた。







×     ×     ×     ×     ×







 放たれるボール。それは緩い放物線を描いて客席へと到達し―――。
 「高い・・・!」
 「不二がミスった・・・・・・!?」
 あっさり自分達の頭上を越していきそうなボールを見送り、青学メンバーが驚愕の声を上げる。が、
 「へへへのかっぱ! かっぱ巻き〜♪」
 言葉と、ついでにバッグからいつの間に取り出したかラケットと共にジャンプする英二。着地を一切考えずイスの背もたれを踏み台にした彼の、伸ばしたラケット先端が、
 「届いた・・・!?」
 「おっしもらったぁ!!」
 落ちて来るボールへと英二が手を伸ばす。これで不二へのお祝いは自分が言え・・・・・・
 「―――げ!!」
 「ゴクロウサマ英二先輩」
 落ちかけたボールが再び中へと飛び上がった。下から打たれたリョーマのボール。空中で激突した2つのボールは、重力に従い落下するしかない英二を嘲うように真上へと上がっていった。
 「おチビてめ〜!!! 何しやがる!!」
 「別に? 妨害しちゃダメなんて周助言ってないし」
 しれっと言うリョーマ。着地場所確保のため下を向くしかない英二を無視して上へと手を伸ばす。まるで天の恵を請う地上の天使のように。
 空中を不安定に漂う球が、安定を求めリョーマの手へすっぽり収まる―――
 前に。
 「取らせるかあ!!」
 「うおっ・・・!?」
 むしろすっぽり収まってきた英二が、当然の事ながらリョーマの小さい体に収まりきらずに倒れこんだ。
 どたん! と激しい物音とどっから湧き出たか不明な砂ぼこりを引き連れ、コートからは死角である客席足元へと消える2人。
 「英二・・・。リョーマ君押し倒して君この後どうなるかわかってるよね? もちろん・・・・・・」
 下は下でドス黒いオーラを出していろいろ大変なようだが、幸か不幸かそれには気付かず上は上でどごん! がたん!! などといった何をやっているのかあまり見たくない物音を豪快に立てる大変な状況と化していた。
 やがて、それも収まり・・・・・・
 客席から、黄色い球体を持った手がだらりと垂らされた。








 さて、不二がボールに書いたメッセージは?





2004.2.283.1